フリマサイトでけっこう安く売っていた繰小刀。
あら?これ…坂光さんが作ったヤツじゃないの?という第一印象を大切にして瞬間的に購入ボタンを押しました。
源正一(ミナモトマサイチ)は大阪市に源正一本店という刃物等の製造卸売り業さんがあったようです。
あったようですというように現在は閉業してしまわれたようです。
企業情報サイトを調べて見ますと2023/10/23の更新が最後でしたので不正確情報ではありますがこの記事を書いている2024/10/16現在で言うと閉業から1年くらいでしょうか。
刃物販売の世界も熾烈な戦いがあるのか生き残る会社は次々と新製品を企画したりWEBで販促したりと様々な戦略を立てています。
勿論廃業したからと言って努力が足りなかった、という訳ではなく後継者問題だったり、原材料の高騰、人件費高騰、ツボにハマらなかっただけ、運不運、僥倖のような事だってあるのだと思います。
源正一本店は無くなっても銘が打たれた刃物はこの先何十年も残る訳ですから刃物販促の功績はけっして無くなりません。
さて源正一と打たれた繰小刀は私のインスピレーション通り坂井久二さん製作品なのでしょうか?
とりあえず並べてみましょう
裏の磨き傷を簡易顕微鏡で観察するととても良く似ていますし微調整しなくてもピントが合うのです。
当然なのかもしれませんが驚異的に同じ作り方をしないとそうはなりません。
鍛接線は瓜二つ
刃先の状態は新品状態でフルスカンジに研がれていて小刃は見当たりません
参考は他社利器材製品の新品時の刃先
仕様・自家鍛接鍛造火造り(三種共通)
価格・3000円(フリマサイト)
鋼材・白紙一号
全長・257ミリ
刃長(刃渡り)・135ミリ
巾 ・21.3ミリ
厚み・3.0-3.4ミリ
刃角度・36度
重量・96g
断定はしませんが今回の源正一繰小刀は前期坂井久二さん製作の問屋銘(OEM)だと思いました。
坂井さんの繰小刀を収集してデータを採っていくうちに分かってきたのですが、坂光繰小刀は大まかに三期に分かれています。
坂井さんが独立〜50歳くらいまで(私の推測です)に製作した七八五六号と銘が打たれたもの(便宜上前期品とします)と七八五六号銘がボヤケたモノ(中期品)と、60歳以降に製作した六七四二四と銘が打たれたもの(後期品)に細部が違うのです。
前期品は鞘が細く円に近いです。
刃角度は30〜37度と幅がありますが35度前後が多いです。
中期品は鞘などは同じで細いですが刃角度が30度前後が多いです。
後期品は鞘が楕円で太く刃角度は27度〜30度と30度以下である事が多いです。
私感で切れ味が一番軽く感じるのは刃角度が鋭角傾向にある中後期品です。
どちらもメリットデメリットがあって完全に好みの問題だと思っていますが私は後期品が好みです。
初期品七八五六号(刃角度35度前後)→中期品七八五六号(刃角度30度前後)→後期品六七四二四(刃角度27度前後)、このように推移したと思われます。
私的意見ですが、鋼種が変わったとか、長年繰小刀を作っていて職人さんの意見を反映したり欄間彫刻の衰退等を経て家具製作に対応するように練り上げた形が後期品なのでは?と勝手に思っています。
ハッキリ見える七八五六号の銘
仕様・自家鍛接鍛造火造り
価格・3000円くらいか
鋼材・白紙一号
全長・275
刃長(刃渡り)・135ミリ
巾 ・21ミリ
厚み・3.3ミリ
刃角度・36度前後
重量・102g
刻印がボヤケてしまっている七八五六号の銘
数字の刻印だけが一新されて字体が変更されたバージョン
仕様・自家鍛接鍛造火造り
価格・4000円くらいか
鋼材・白紙一号
全長・275
刃長(刃渡り)・135ミリ
巾 ・21ミリ
厚み・3.3ミリ
刃角度・28-30度
重量・102g
六七四二四の銘
仕様・自家鍛接鍛造火造り
価格・6000円くらい
鋼材・青紙1号(問い合わせて確認)
全長・275ミリ
刃長(刃渡り)・135ミリ
巾・21.5ミリ(根元部)
厚み・3.3ミリ
刃角度・28度
重量・109g
銘がボヤケてしまっている七八五六号の全てではありませんが刃角度が30度前後になっている場合がほとんどです。
この事から1980年前後から七八五六号で何千本も作ってきて刻印がヘタってきた頃に角度の変更が行われたのではないかと推測できるので刃角度を参考に購入したい方の目安になるかもしれません。
ただ、七八五六号のハッキリした銘のモノは40年くらい前なので入手は困難かと思います。
比較的簡単に入手できるのは中期以降のモノなので坂光イコール刃角度が30度以下であると考えていいのかなと思っています。
今回の源正一はどちらに当てはまるのかというと七八五六号の初期品に酷似しています。
どちらにせよ、いつ見ても坂井さんの仕事は丁寧です。
刃先を観察すると小刃が一切ありません。
箱出しで小刃がない小刀を作る職人さんは数えるほどしかいないですよね。
数打ちの鍛冶屋さんだと今も昔も唯一無二ではないでしょうか。
一本一本丁寧に研ぎ上げていたんだろうなぁと感動します。
新品状態で小刃がある小刀を研いだ時に新品状態と同じく小刃を付けるのかそれとも小刃がないフルスカンジに研ぐのか悩みどころです。
小刃を付けた状態で出荷した事の意味はどこにあるのか?
一番の理由は量産品だからでしょうか。
・電動砥石が最終工程になっていて簡易的かつ即時に刃先を整える事が可能な小刃付けにした
・出荷して運搬時に刃先の欠けが起こる事を嫌って小刃を付ける事にした
・刃先が欠けやすい性能なので必ず小刃を付けて使って下さいというメッセージ
たまたま手元に昭三の新品繰小刀があったので刃先を見るとガッチリ小刃が付いています。
箱に入っている説明書を見ると…
表刃を砥石面に合わせるとベタ研ぎを推奨しています。
本刃付けはお客様で行って下さいというメッセージがあって良いと思います。
まぁ、最初に小刃が付いていようとも一度はフルスカンジに研ぎ上げて使用してみて刃先が脆いようならば小刃を付けるので大した問題ではないのですけれど、そこに隠された作者の意図した部分を知っておきたいというのはワガママか。
最後に坂光OEM可能性ある銘をざっとまとめますと、源正一、越堂の古いやつ、助延正、木屋、白牛、獅子王、大納言、玉哲、ふじ近、玉仙、まだまだありそうです。