※この記事は2022年10月にアップしました
二年くらい前まではメルカリなんかのフリマサイトで売られていた天然砥石は良質なものが多かったように思います。
皆良心的でしたし評価を悪く書いてほしくないからでしょう、誠心誠意対応してくれました。
今もそういう方も沢山いらっしゃいますし、私自身もたまに購入しています。
※下の写真は青砥、赤門前、八木嶋浅葱(やぎのしまあさぎ)、相岩谷(あいわだに)、正本山、鳴滝等何本かは持っている私の天然砥石達です。
何十万円もするものは買っていません(怖くて買えませんが)会津砥石とか青砥とか閉山したところの砥石なんかは手頃で出品されていますし見た目でも判断しやすいので買ったりします。
青砥はけっこう癖のあるやつや割れているモノが多いのですが、駄目なら名倉や曲がりモノの砥石に改造できるのでそんなに深く考えずに買いますし失敗もほとんど無いです。
仕上げ砥石も5千円~1万5千円くらいでコッパか少し大きめのモノが買えますが、安い物でも失敗しないよう、なるべく横から見える層を確認したり裏面を確認します。
カシューを塗って横面を見えなくしているものには少し注意を払います。
特上質なものはあまり出会ったことはないですが筋を掘り除いたりすれば十二分に使えるものが結構出品されています。
小刀の場合研ぐ面積が小さいですから良い部分だけ使うことも可能ですし、彫刻刀を研ぐには無問題ですから入門用としてはお手頃だと思います。そういう悪い部分もしっかりと説明文に明記してくれている出品者が多かったので買いやすかったです。
特にお祖父さんが金物屋を廃業して、在庫商品をお孫さんが出品するという王道パターンは昭和の良在庫が多くあって(砥石に限らず鑿や鉋などの)良品を随分入手しました。
ところが、最近になって粗悪な砥石の出品が目立つようになってきたのです。
コロナ禍の自宅趣味の刃物需要やキャンプブームでナイフや鉈を使用する機会が増え、必然、砥石の需要も増えたのでしょうか、悪徳業者はそこに目を付けたのかもしれません。
どんな騙しがあるのか?騙されないためにはどうしたらいいのか?既にTwitterでは情報が共有され始めていますがウエブサイトではあまり触れられることがありません(Twitterは基本的にウェブロボット避けがされてます)ので、今回、実例と私流の騙されない為の心得を書いておきたいと思います。
※当方砥石のプロではありませんので砥石上級者に向けての記事ではありません。
あくまでも天然砥石初級者に向けて同じ目線で書き残した備忘録の延長程度にお考えください(参考にはなります)。この記事のせいでお買い得高級砥石を買いそびれた等の苦情はご勘弁ください。
奥が深いと言われる砥石の世界。中でも天然砥石の世界は天然砥石の沼とか天然砥石地獄とか言われてたりして。
私の知人は砥石にのめり込むあまりに財を失い夜逃げをした程です。
天然砥石ほど初心者に厳しくて曖昧なものはありません。
JIS規格があるわけでなし、産地を偽っても肉や魚、野菜のように違法では無いのです。
詐欺になるのでは?と思うかもしれませんが
「当方素人で何もわかりません。わかる方の入札をお願いします」
という魔法の言葉を添えておくだけで、もしコチラがクレームを入れたとしても
「ですからわかる方の入札をお願いしますと言いましたのに~」
と言われて終了です。
†最近特に目立つ手口としましては低品質の石に高級品の偽造ハンコを押して出品するという例ですね。
◯にカのハンコを押してマルカ砥石(加藤鉱山)の偽装や、巣板のハンコ、本山のハンコ偽装が目立ちます。
※加藤鉱山、中山砥石、正本山、畑中砥石等のキーワードで検索するとマルカ砥石について理解しやすいです。
この場合、全く研げない石ころに闇雲にハンコを押して販売しているわけではなく、問題なく研げる(最高の研ぎは無理だけど無難に研げるの意)砥石にハンコを押すものだからタチが悪い。
なにせマルカ砥石の本物の最高級品なんて初心者の殆どが使った事がありませんし、山の名前のハンコなど初心者には意味がわからず高級そうなイメージを抱いてしまうでしょうから、
「本物と研ぎ味が全然違う!」
なんて言えないわけです。
クレームを言おうものなら
「研いだ感覚は個々によって違いますので。私はマルカ(本山)と判断しましたが貴方と意見が違うからと言って即偽物の疑いをかけてくるのはおかしくはないでしょうか?」
などと、のらりくらりかわされてオシマイです。
もちろん本物のマルカハンコの見分け方もあるのでしょうが確実では無いので実物を見れない入札はやめたほうがいいでしょう。
※一時期「カ」の文字のハネの違いで判別するなんて話もありましたが敵もさる者、それは既に通用しないでしょう。
他の産地の砥石もハンコ偽造が増えています。偽造ハンコは3Dプリンターで簡単に作れますしネット注文でもいくらでも作れる時代ですのでハンコを判断材料と考えるのはやめたほうが無難です。
・フリマサイトやオークションサイトのハンコは疑おう!
・真新しいインクは要注意!
・ハンコの偽造は簡単にできる
と覚えておきましょう。
†次は中国産出の砥石を日本産出のように見せて売るパターンです。
これも漢文の変なハンコを押してます。
説明文が微妙におかしいのでわかります。
中国の砥石が絶対に駄目とは言いませんが実績が無いものに数万円を支払うのは怖いです。
日本でも高価なカラスと言われる模様の入った砥石に似たモノも中国で採掘されるようで(中国カラス自体人造という説もある)、大きくて真四角に仕上げられていて3万前後で売られていますが、同じような大きさ形で日本で販売されていたら数十万はするでしょう(注意!日本産出で高価だからって絶対に良く研げるなんて言ってないです)。
※下は本物のカラス。模様が美しい。横は層になっている。
※下は中国産のカラス(といっていいのか)。諸事情により一部しか見せれませんが横にも同じ模様が見えます
産地は不明です、というのが常套句。見た目も毒々しかったりして、ちょっと買うのが怖いです。
※下は青砥に似た中国砥石。品質はイマイチだ。丹波青砥と偽る業者もいる
※日本の人造砥石に鳴滝のハンコを押して天然砥石として売っている例。これは酷い
少し前に中国産で日本の青砥に似た砥石をぶったまげるような値段(通常2000円くらいのモノを12000円とか)を付けてクラウドファンディングでお金を集めている業者がいましたが、驚くほど集金されていました。その砥石は中国の某砥石で性能悪しという事は検索したら直ぐに出てくるのにです。。。この砥石で鉈を砥いでバトニングだ!なんて言葉が添えられていて。。。キャンプブームって怖いですな。
中国砥石が優れているなら中国人に依る日本採掘天然砥石の買い漁りは起こりません、中国砥石と判明したら手を出さないほうが賢明なのです。
※カラフルだが性能はイマイチ。現地の刃物には合うのかもしれないが。
・おかしな日本語説明文には注意せよ!
・漢文ハンコは信用しない
・産地不明は要注意
・中国砥石に良品なし
・カラフルな天然砥石は警戒せよ
と覚えておきましょう。
†最後は一番悪質なやつです。
低品質の中国砥石や御影石的なもの、成形した岩や、レンガ、挙げ句にコンクリート混入石を「◯◯産」と偽って格安(2500円~6000円くらい)で販売している猛者です。
フリマサイトにいる業者ですが、本当は名前を晒してやりたいです。
この業者は理論的なことを説明文に書いてそれらしく装っているのですが、天然砥石にそこまで詳しくない私でさえ、「産地が違うんじゃない?」「これって?砥石じゃないんじゃないの?」「岩だろこれ?」というようなモノが大半なんです。
そこで評価を確認して見ますと、やはり10人ほどから悪い評価が付いていました。
「砥石ではない」
「ただの石ころでした」
「砥汁が一切出ません酷い商品です」
「騙されました。安かったのが唯一の救いです」
「黒いだけの石でした」
等々、罵詈雑言に近いコメントの羅列です。
ところが、数ヶ月後にもう一度見ると出品者の名前と発送地が変わっていて悪い評価が全て消えていました。
これはどういう事なのでしょう?
調べてみるとそのフリマサイトは評価の事後変更は不可能ですが運営に異議申し立てをすると削除してもらえることが可能なようです。
砥石というある意味不安定な商品を逆手に取ってやりたい放題ですねこれは。
更にこの出品者は匿名配送に対応しません(現在は匿名配送可能なものもあるようです。ようは売れなくなってきているという事か)。
こちらの住所がまるわかりですので、騙されたにもかかわらず報復が怖くて良い評価にしている人もいるのです(私の知人)。
今も悪どい手口で出品しているようで一ヶ月後には新規の悪い評価が4つに増えていました。
困った事に初めて天然砥石を購入した方の中には中国砥石やレンガに違和感を感じる事がないのか普通に良い評価をしている方もいるようなんです。
満足しているのならそれでいいのかな?とも思うのですが、自己紹介欄で悪い評価をしている人を激しく非難しているやり方を見ると複雑な気持ちになってしまいます。
この方が出品している砥石の裏には独自の模様があります。
天然砥石は横の層や裏を見よという言葉がありまして横はミルフィーユのような層があればなんとか天然砥石ではありますし裏はハツリ跡を見たりします。上級偽砥石はハツリ跡さえ模していることがあるので注意が必要ですが、目安にはなると思います。
手持ちの天然砥石の横と裏「さざれ銘砥」の文字が見える
さて、この方の販売する砥石的なモノの裏の独自な模様ですが、試しにグーグルレンズに裁いてもらいましたところ、絶句しました。
なんとグレーのレンガが出てきたのです。これ、似ているモノではなくてそのまんまだ、、、、これを成形して砥石と言って売っているんだ。
これは酷い。。。そしてグーグルレンズ凄い。
手持ちの砥石の裏面をグーグルレンズで検索してみたところ天然砥石が沢山検索結果に出てきました。
もちろん参考程度にしかならないのですが、少ない情報でも最大限に活かしたいところです。
・フリマサイトで砥石を買うなら匿名配送で買いましょう。相手も悪評価は困るのでそこそこの砥石を送ってくれる。
・形良く安い砥石には罠がある。
・悪い評価1個→内容精査。悪い評価2個→熟考。悪い評価3個以上→絶対買わない
と覚えておきましょう。
※この方の販売した偽砥石を購入して粗悪品だと気付いた人がさらにフリマサイトに出品するという二次被害も発生しているので本当に注意が必要です
なんだかんだ言っても天然砥石は店舗で試し研ぎできる所で買うのが一番ですよね。
私は現在そういうことができない環境ですので少しの天然砥石と人造砥石で研ぐようにしています。
※出番を待つ浸水系の砥石。常に水の中にある。流し台は砥石に占拠されている
浸水不要の砥石達は流し横で出番を待つ
※下写真(表題写真)は以前私が河原で拾った砥石様の砂岩。そこそこ研げるが天然砥石には程遠い。天然砥石とはまさに珠玉、悠久の時が生んだ奇跡なのです。
通販で購入する場合も気を付けないと個人情報を晒したりするショップもあります。
例えばブログ記事でどこどこの大企業の部長さんが購入して褒めてくれただとか、先日売ってやった◯◯県の研屋は何もわかっていない素人だ!とかなんとか、特定できる事項ではないにせよそんな事を書かれた日にはどんなに良い砥石を売っているショップでも近寄りたくないですよね。
更に以前こちらで警告を促した詐欺サイトですが天然砥石でも同様の手口が確認されています。
格安→他サイトの無断転載画像→日本語がおかしい→存在しない住所。
絶対に送金してはいけません。商品は来ないのです。
安心できる代表的な所で言えば、かっぱ橋森平さんとか、さざれ銘砥さんや砥取やさんなんかは安心できますね(他にも沢山あります)。
気になるショップを発見したらグーグルマップで存在の有無を確認してウェブサイトの登録からショップに行くとほぼ安全かと思います。
必ず理想の砥石が入手できるとは限りませんが品物が届かないという悔しさを味わう事は無いでしょう。
私はYou Tubeやブログ等を展開されている個人で砥石を販売している方でもコメント欄やブログやSNSでの表現等でその方の熱量(情熱)を推し量り、判断の材料にすることもあります。
コメント返信等で汚い言葉を使っていたりブログ記事で他人を攻撃するような事を書いている方には一切近付きません。人間性って大事です(この記事で悪徳業者を攻めている自分は棚に上げていますが)。
天然砥石は産地や層によって細かく分類されていて難解で、性能も不安定なところがあります。
0.5ミリ減ったら傷だらけになってしまう砥石に変化することだってあります。
高価な砥石でも慣れないと全然研げないなんて事もありますのでとっつきにくい部分もあるのですが、ツボに入った時の得も言われぬ切れ味は何にも代えがたいものがあります、そこに付け込んだ巧妙な罠に初心者は騙されてしまうのです。
一部の悪い人達のせいで今まで良品を売っていればなんとか成立していた販売者の方も「悪徳業者ではない証明」をしなければいけないというフェーズに入ったのだと思います。
購入する側にも問題行動をする方がいるようです。
騙されて購入した偽砥石の写真を採掘業者さんに送りつけて鑑定しろというものです。
もし、鑑定で偽物と結果が出たら、その方は採掘業者が偽物と判断したぞ、とクレームを入れるでしょう。その行為は採掘業者さんを代理戦争に巻き込む事になる事はわかっているのでしょうか?
騙されたらどうするか→諦めるしかない、のが現状ですから騙されないのが一番なのです、悔しいけど。
また、騙される方も悪いのだ、それが嫌なら人造砥石を買え、という意見もありますが、売る側に騙す意図があるかないかで話は大きく変わってくるのではないでしょうか?
例えば10万円で購入した天然砥石が、前述の通り表面は良い砥石で0.5ミリ下が砥石として使えなくなることが予見できない場合などは騙しとは言えないでしょう。こういう事が起こるのが天然砥石の世界なのだ、という痛いお勉強代です。ただ、わかっていたのかわかっていなかったのかは本人しかわからず当然わからなかったと答えるでしょうね。
対して、最初から砥石として機能しない石を高額で販売するのは騙しですが、現状では「知らなかった」が通じてしまうのです。
うむ。書いていて訳が分からなくなります。ある意味砥石の沼、底なし沼だ。
魑魅魍魎が跋扈する不透明な砥石の世界というイメージがクリーンになる日は来るのでしょうか?天然砥石の枯渇と共に消えゆく世界なのでしょうか?
わからない。わからないけれども今日も夜な夜な、変わらず砥石に小刀を滑らせている自分がここに、確かに居るのでした。
※偽砥石は組織的に量産されているのか、数人から出品されています。名前等公表したいのですが身の危険を感じるような出来事も発生していますので特定・断定は致しません。ボンヤリした書き方をお許し下さい
※追記:偽物砥石の研ぎレビューしてくれている動画がありましたので紹介させていただきます