清房という銘は廃業された新潟(三条かは不明)の小出さんという鍛冶屋さんが作った小刀です。
初めて買ったのは2019年でした。
最初の印象は研ぎ難くて切れ味はごく普通というものだったのですが、ことある事に引っ張り出して砥いでいるうちに適合した研ぎ方を覚えたとい言いましょうか、清房小刀に良い刃を付けるコツがわかってきたと言いますか、凄く切れる印象に変わってきました。
特に比重が0.45〜0.65くらいの中堅木(という言葉は私の造語)、マホガニーや桜、胡桃、メイプル材等への食い付きがすこぶる良く楽器製作の強い味方になってくれていたのです。
清房の小刀は鍛接が雑、裏がイマイチ、銘はカスレている、鞘が閉まらない等、刃物コレクターからは敬遠される要素満載なんですが、私のような切れ味至上主義者にとっては有り難い小刀なのです。
けっこうレアですから数年かけて繰小刀や横手小刀、(当サイトではまだ未紹介の)白書き小刀なんかをコツコツと集めてきました。
2023年突如オークションに結構な数の清房小刀が出品されました。
調べると三条の金物卸株式会社ヤマイチという会社が2021年にコロナの影響で倒産したようで、その在庫処分品と思われます。
もちろん落札に乗り出しました。先ずは珍しい小さ目の小刀を落札したのですが届いてビックリです。
巨大過ぎる!右は木屋の90ミリ
梅心子75ミリと比較
勝手に75ミリの小刀だと思い込んで詳細を見ていませんでした。
これはデカい!
説明欄に寸法もしっかりと書いてありましたが特注品ならいざしらず市販品でまさかこんな大きな小刀が存在するなんて思わないですから写真のバランスで判断してしまい説明欄をしっかりと見ていませんでした。
箱を開けた時思わず笑ってしまいましたね。
もちろん嬉しい方の笑いです。
先にスペックを見てみましょう。
仕様・自家鍛接鍛造火造り
価格・1800円(落札価格)
鋼材・不明
全長・250ミリ
刃長・83ミリ
巾・36ミリ
厚み・3.2-4.9ミリ
刃角度・22度
重量・127g
25センチの全長と1寸を軽く超える幅、重さは他の横手小刀と変わらない数値に感じますがこの小刀は最初から鞘が無いので普通の横手小刀より40g以上重いです。
※小刀の重量を表記するようになったのは2023年からですが横手小刀は鞘アリとナシの両方の重量を記載した方がいいのかもしれませ。考えてます
さて、こんな大きな小刀を何に使うのか、そして切れるのかという事が気になるところですが、、、良く切れます。最初から凄く切れます。
ただ一つ大きな問題がありました。
写真では分かりづらいのですが大きな反りがあるのです。
意図的な反りなのかな?とも思ったのですが、意図だとして何を削るための反りなのかと考えた場合に小さめの丸太の皮剥きとか能面の表面削りとか椅子の脚の丸み部分の削りとかかな?と考えつつ、それにしては不正確な反りに思えてしまって、清房小刀は元々裏のRがキツいのと他の小刀でも反りが出ているのもあり、私的結論としては製造後に反ってしまったのだろうという考えに至りました。
そうなると切り口が平面にならないという事なので問題が大きくなってきます。
そこで最近多用しているコジ棒を使って反りを矯正してみました。
エイッ!アッ!
うわっ!コジ棒が一発で折れてしまった。
幅が大きい故に力がかかり過ぎてしまったようです。
更に悲報が入りました。
Twitterで同じ小刀を落札した方からコメントを頂き、その方は反りを矯正しようと叩いたそうなのですが矯正に成功して研いだところ刃がボロボロと欠けてしまって使用不可になってしまったそうです。
「温めてから叩けばよかった」と後悔されていました。
この方は趣味で木製のお皿やスプーンなどを作っている方で小刀に精通されていらっしゃいますのでリアルな助言でした。
それを踏まえて軽く叩きました(え?叩くの?)。
普段は叩かないのですが大きい小刀で叩き易そうだったのでやってみました。
金床は使わずアルミ床で赤い部分をコツコツと玄能の角で軽く叩きます。
強く叩くと一発で割れます。
アルミを使う理由は金床に当った時の反発力で鋼が硬化するのではないかと考えての事です。
金属を叩き伸ばして壷等を作る鍛金という工芸では金属を叩いていると硬くなってくるのでその度に焼鈍するそうで、それを知って色々と調べてみたのですが鋼でも冷間鍛造すると硬くなるようなのです。
小刀は直接鋼を叩くのではなく軟鉄部分を叩く訳ですが叩いた反動で裏の鋼を金床に打ち付けているようなものですから何かしらの影響があるはず。
柔らかいアルミで影響を最小限にしたいのです(思い込みかもしれませんが)。
かなり叩いてみたのですが、、、、下手なんだろうな、、、なかなか真っ直ぐになりません。
業を煮やしてもう少し強引に事を進めます。
万力で挟んで梃子の力で曲げます。
コジ棒の強力バージョンですね。
折れたとてかまわぬ!肝を据えて刃先を避けて挟んでエイッと力を入れますと面白いように矯正できました。
ここから研ぎ作業に入ります
刃線が曲がっているので荒砥で矯正しました
大きいから研ぐのも大変だ
なんとか完成
上部の軟鉄部分が叩き過ぎで没落しているのと刃線が真っ直ぐになってないですが追々修整していくことにします。
写真を撮って驚いたのですが試し切りの後だと刃先が欠けまくっていますね。
叩いておかしくなったのか刃角度の問題で小刃をつけなければいけないのか様子見しながら使います。
試し切りして動画にしてみました
刃持ちは別として力が入れやすく鉈のように大きく削れますし、繊細な削りもできます。これは凄い小刀だ。荒仕上げにかなり役立ちそうです。
しかし、本当に何に使う為に作られた小刀なんだろう?
ただの木工用?いやいや、野菜の収穫用、接木、鰻裂き、餅切り、色々考えられますが製作依頼した会社が存在しませんので謎のままです。秘すれば花ということか。
清房の小刀はまだまだ色々な形の小刀がありそうで愉しめそう。
大好きな小刀がまた一つ増えました。