三木の重鎮・東大吉こと大東英一鍛冶(この記事を書いた2023年時点ですでに廃業確認済)が製作した繰小刀です。
かなり古いモノのようですがとても状態が良い。
東大吉といえば青紙1号が有名ですが、今回紹介のモノは白紙だと思われます。
東大吉さんの小刀は白紙も結構多いのです。
「吉幸」という登録銘ですが吉という字の上部分が土(下が長い)では検索不可能でしたのでそのまま吉(幸)で商標検索すると大阪のヨシユキ商会という運送会社がヒットしましたが関係は無さそうです。
運送とは別部門で刃物関係の部門もかつて存在したのかとも考えたのですが比較的新しい登録なのでもしかすると以前登録されていた吉幸という刃物関係の商標が権利消滅したのを期に新規登録されたのかもしれません、まさか運送会社で荷縄を切るために特注したとかノベルティで製作依頼したとかではないとは思いますが詳細は不明です。
素晴らしい作り。鞘は蝋引きで銅線巻き
精緻極まる鍛接線
古い小刀なのに歪みはほとんどありませんでした。これは脅威です。なぜ古いと思ったかというとやはり鍛接線の緻密さですかね。見た目は新しくて時代は感じないから迷いましたが鍛冶屋さんの多くは晩年になると鍛接線に隙間ができる事が多く東大吉さんはそれが顕著ですから若い頃(と言っても50歳60歳の頃でしょうけれども)に打ったものと言って良いかなと思いました。
刃元、柄に近い部分は刃殺しが施してあって三木のナイフギルド名誉会長でもある大東英一氏が製作しただけあってナイフに通ずるかのような仕上げです。
指が切れないよう使用者に優しいのですが研ぐ時には緩やかなカーブがとても邪魔です。
私はあまり深く考えずに赤いラインから下は研ぎません。
人によってはグラインダーで平滑にする方もいるかと思います。
スペックです。
仕様・自家鍛接鍛造火造り
価格・6000円(落札価格)
鋼材・白紙と思われる
全長・250ミリ
刃長・130ミリ
巾 ・20.5ミリ
厚み・2.4ミリ~3.8ミリ
刃角度・34度
東大吉青1号繰小刀と並べてみる。
形はほぼ同じですね
青紙仕様のスペックは以下になります。
鋼材・青紙一号
全長・255ミリ
刃長・135ミリ
巾 ・20ミリ
厚み・4ミリ
刃角度・30度
刃角度が4度鋭角の影響か青紙の方が切れ味は軽く感じますが、それでも切れ味はすこぶる良いです。
試し切り動画は胡桃材の木製マグカップを切削してみました。
大東英一氏は「小刀(刃物)は研ぎが一番大切」と何かの記事で仰っていましたが、覚悟を持って立ち向かわないとこちらが負けてしまいそうな研ぎ味でした。
最初からそこそこの切れ味でしたが刃先に乱れがありました
研いだ後です
現在手持ちの東大吉さんの小刀の中でミニ切り出しと両刃切り出しと繰小刀の刃のみ3枚が盗難に遭ってしまい現在行方不明中というのが悔やまれます。
掘り出し物があれば買っていきたいと再認識させてくれた今回の小刀でした。
東大吉さんの小刀は品薄になりつつありますが数打ちでも名を馳せた方ですので自家鍛接品、利器材品どちらもまだネット上には見受けられます。小刀好きの方は見かけたらぜひ手元に置いてあげてください。きっと強い味方になってくれると思います。