名倉砥石にクレームが殺到していてビビった

前回少し触れた名倉砥石なんですが、最近はキング砥石で有名な松永砥石やナニワ砥石、スエヒロなどから人造の名倉砥石が発売されているのですね。

キングのG1という砥石を購入すると漏れなく人造名倉が付いてきたりします。


少し前の事なんですが人造の名倉も少し試したいなと思いましてナニワ砥石の彩(いろどり)というのを購入したのですが、レビューが随分付いていましたので確認してみると驚くような文章がかなりありました。

思っていたよりずっと小さくて研ぐのに苦労してますがさすがに綺麗に研げます

届いた商品を見てビックリ!さすがに小さすぎるので返品します

安かったので購入しましたが私の用途では小さすぎました

研ぐのは苦労しますが良い刃が付きます

???多くの人がどうやらこのように使用しているようです。


中には詐欺呼ばわりしている人も居て困ったものです。
説明書にはサイズの記載があり、業者用という断りがありました。

共名倉としてご使用ください

と書かれているのもありました。

知らない事はけっして恥ずかしい事ではありません、その時から知ればいいのですから。
説明書をよく読んで検索エンジンで数秒調べればどのように使用するかは理解できるのです。
残念ですが、その手順を踏めない方が結構いらっしゃる。

本来の名倉砥石は愛知県で産出された砥石です。

名倉砥の産地は全国の天然砥石産地の中でも一地域にしか無く(愛知県北設楽:きたしたら)郡三輪村砥山であって従来言われている様に名倉村とか名倉山から出ているのではない。三輪村の隣が振草村で振草村に隣接して名倉村があるけれども、名倉村の方からは砥石が出ていない。

恐らく昔此の辺一帯が名倉村といわれたか、或は砥石は名倉村へ運び出されて此処から諸国へ売り出された為に其名を得たものと思われる。土地の伝説では平家の落武者、名倉左近が刀を研いで見て発見したと言われており現在は閉山されています。

(岩崎航介著者 刃物の見方 名倉砥の現地調査より)

刀剣を研ぐのに使用されていた砥石ですが他の天然砥石とすり合わせると相乗効果が得られるという事で硬い砥石を使用する剃刀愛好家の間では古くから当たり前に使用されてきたようです。
他の砥石上で擦ると白い泥が出ます。その状態で刃物を研ぐと最初はジョリジョリ感があってその後シャリシャリになりスルスルしてきます。粒が押し潰れて細かくなるのでしょうか?不思議な感覚に陥ります。


名倉砥石→三河名倉の小片を他の砥石に擦って使う(が大きなサイズは普通の砥石として使えます。でも大きなサイズはお高いしほとんど売ってませんし偽物も多いのです)



※写真は伊豫砥のかけらや割れた砥石をそのまま共名倉として使用しているもの、最初から共名倉に仕立てられた天然砥石

共名倉→三河名倉ではない他の砥石の小片を他の砥石に擦って使う

これらを総称して名倉砥石としているのが最近の流行り?のようです。
小片ですから直接刃物を研ぐのは本来の用途とは違っていると思います。

砥石は使う者が自由に扱って良いので大きなお世話なのですが本来の用途を理解してからアレンジするのがいいのではないでしょうか

メーカーの推奨では

・目づまりを解消したり目づまりしないようドレッサーとして使用する






・水分切れを起こしたときに水分プラス砥粒を補給するために使用する

・固くて砥粒が出にくい砥石のスタートに使用して研ぎやすくする




・番手の低い砥石に使用して番手を上げる効果のために使用する


※さざれ銘砥さんで出している人工名倉を使用しています。

ざっとこんな感じです。
ただし、メーカーも業者用としている事からも扱いが難しい、いや、時間と研究心があればそんなに難しい事ではないと思いますが、通常、包丁をすぐ切れるようにしたい方がそこまで深入りしないだろうというのが本音です。
力加減や往復回数で何十通りもあるパターン×パターンで数千通りの中からこれだ!と思える自らの技を見つけ出すには現代社会は忙しすぎるのでした。

鉋のミクロン削りに22年間心血を注いで境地に達した国本貴文さんの22年目の真実という記事を是非ご覧ください。
究極の切れ味が砥石単体では無く他の砥石との相乗効果に関係しているという答えに辿り着く過程は思わず読み入ってしまいます。

そして最初は興味本位でいい。
大きな砥石に小さな砥石を擦って研いでみる。
何時もと違う何かを感じる事ができればしめたものです。