こんな繰小刀があったって良いんじゃないの?その2(最後)

前回の記事では本来片刃の繰小刀を両刃の様に研ぎ直して使用している相談者の方から両刃みたいな繰小刀を特注できる所を知りませんか?という相談を受け、おそらく無理ではないか?と予想した私が先ずは自分で片刃の繰小刀を両刃様に研いで理解してみようと思い立ち手持ちの繰小刀を研いでみたのですが、なかなかに苦戦を強いられましたというところまで。
そこに相談者の方から再び連絡があり現在使用中の繰小刀の詳細を教えて頂いたのですが、本来平面の筈の裏面に付けている角度のある小刃の幅は1〜4ミリというなかなかに大きな小刃だという事がわかりまして、私の想像(妄想?では0.5ミリ以内だった)とは大きな解離があることが判明したのです。


包丁の研ぎのバリエーションでは両刃の片側を鋭角にしたり片刃の裏を大幅に研いで両刃の様に仕上げて使う事は少なくはないという事は知っていましたし、肥後守では表裏の角度を違えて研ぐ6:4研ぎや7:3研ぎがある事も知っていたのですが小刀では試みた事はありませんでした。
特に困った事も無かったのですが、良い機会だからやってみようと思います。

前回候補に上げた三本のうち栄太郎の繰小刀を両刃様に仕立てます。
三木章は刃を抜くことができないし、共柄は珍しいのでやめときます。
比較的入手しやすく刃が抜ける栄太郎を改研ぎしましょう!
一応切れ味を見ておくと


このままでも十分に切れますが裏返した時の喰い込み具合に変化があるともっと使いやすいかもしれないので試す価値は十分にある。
もし、自分に合わない時は相談頂いた方に差し上げるつもりでやります。

裏に真鍮のシムを7度の位置に両面テープで貼り付けて、これをガイドとして研いでいきます。
このやり方だと真鍮も一緒に研いでしまう事になるので刃先に力を入れて短期決戦で研いでいきます。
刃の黒幕#1000→


なにわ砥石颯#2000(話題の新製品良く研げます)→


響#8000→

革砥

仕上がりました。
不安を他所に奇麗に約1ミリの小刃が形成できました。


気持ちハマグリに仕上げて削った材の滑らかな排出を目指します。どうかな?
先ず割り箸を削ってみますと


ほぅ~
と思わず声を出してしまいました。
当然ですが食い込みが変わって、その効果なのか杉の繊維からパキリと割れる事が少なくなったのです。
鈍角になったので押しは重いのですが切れないという感覚ではなく刃先のコントロールがやりやすくなりました。
杉材を切ってみますと裏返して使った時のやり易さが格段に向上しました。


片刃の良さと両刃の良さが合体したけど研ぐのは少しコツが必要だよという繰小刀ですね。
正直に申しますと当初は一本無駄になるのだろうなと思って研ぎました。が、実際はとても良い感じなのでコレはギター製作に使っていきたいと考えが変わりました。

最終結論として、特注の繰小刀を誂えるのは色々と難しいという事で家具製作家や楽器製作者の方達の今後は入手が難しくなる一方と言えるでしょう。
小刀に限らず鉋とか鑿もそうなのでしょうけど、とにかく職人さんの減少が止まらないのです。
今後は欲しい刃物は自分で作るしか方法が無い!という日がすぐそこに来ていると言っても過言ではないのです。
※今回の事で急遽繰小刀をハイスで自作してみました。いずれ紹介します




相談者の方もその事を強く感じていたようなので改めて私の手持ちの繰小刀を何本か譲る事にしました。
特に試してもらいたかった両刃繰小刀(後に平出の刃物経の政吉作と判明)と坂光を送ったところ
「とても良く切れます」
と返信を頂きひと安心した次第です。
彼の元で坂光も両刃様に育つのか?気になるところではありますが、何時か経過を聞こうと思っています。


その後お礼といってお菓子と作品のバターナイフを送って頂きまして
「この括れの部分に繰小刀を使ったのだろうか?」
「ここはもしかしてお譲りした坂光を使っていただいたのか?」
等と妄想が止まらず楽しい時を過ごせました。