助房横手小刀・大・東京小刀は謎だらけ。その3ダルメシアンが現れた編

前々回のお話助房横手小刀・大・東京小刀は謎だらけ。その1決別と再会編
前回のお話助房横手小刀・大・東京小刀は謎だらけ。その2温故知新編

新品の今助房小刀とデッドストックの昔助房小刀を入手して、さぁ切りまくってやるぞ~と息巻いたまでは良かったのですが、初期段階の刃の状態が悪く切れ味が満足できるものではなかったので軽く研いで見ることにしました。


軽く。。。私は当サイトで度々書いていますが古い小刀を入手後の初研ぎでは殆どの場合最初から完全に研ぎ上げる事はないです。
様子を見ながら使いながら徐々に研いでいって裏の様子や刃先の様子、鎬(しのぎ)の様子を確認しながら時には数年がかりで完成させますので研ぎマニアの方には不満が残るやり方だと思いますが御了承ください。

そんな訳で今回も荒砥は使用せず最初は1000番くらいの中砥を当てて様子見です。


シャプトンオレンジを当ててみると鎬部分がけっこう平らです。


裏は。。。平面とは言えず、しかし刃先部分は砥石が当たっている感じです。

一旦置いて表に戻ります。

次に「なにわ剛研デラックス1000番」を当ててみます。


1000番から1000番とは何故に?と思われるかもしれませんがメーカーによって1000番の砥粒の大きさが違いますので不思議ではありません。
しかし今回の場合、実は今助房の方を先に研いだ時に事件が起きまして。

シャプトンオレンジ(1000番)で研いだ時に鎬部分に曇が綺麗に入って、あぁ鎬が平面になったんだな、と理解して次の3000番(なにわ砥石・響)に進んだところダルメシアンのような模様が現れたのです。


これは一体どういう事なのでしょうか?
砥石は両方とも平面でした。
考えられるのは最初から鎬部分が平面ではなく窪んでいたという事。
窪んでいたにもかかわらずシャプトンで研ぐと窪んだ部分にも曇が付いてしまったという事。
これを研ぎ上がった目印と勘違いしてしまい次に進んだ為に窪んだ部分以外が研ぎ上がってダルメシアンが現れたという事です。
なぜシャプトンの粒子は窪んだ部分にも入り込んで曇らせてしまうのでしょうか?
ウーム。。。分からない。
分からないけれど仮説としては下図のような事が起きていたのだと思います。



だからといってシャプトンが研げていないという事ではないのですね。
研ぎ上がったかどうか分かりにくいというだけだと思うのですが、これってけっこう重要なんです。
それに、もし窪んだ部分に入り込んだ粒子も研磨に作用していたら鎬がいつまでも平面にならない可能性もあるのではないでしょうか?
私的意見として過去に何度かシャプトンは平面維持力に不安があると言ってきました。
その理由として今までは砥石が硬いか柔らかいかという事しか考えていませんでした。が、最近新たな考えとしてシャプトンは窪んだ面を持つ刃物を研ぐという事に弱点があるのではないか?と思うようになりました。

そしてその仮説は「なにわ砥石・響」を使うようになってから確信に近い考えになりました。
このビトリファイド製法(焼成)で仕上げた砥石が実に平面維持に最適なのです。
窪みに粒子が入り込んでイタズラをする事もないのです。

あくまでも個人的意見ですが、シャプトンは全鋼の包丁や鉋や鑿には強く、窪みのある刃物や軟鉄と鋼が合わさった刃物(同一面に異硬度の金属が共存する刃物)には均一に粒子が働きにくいのではないか?と思っています。
小刀などはその最たるものであり、鋼の部分(または軟鉄の部分)が軟鉄(鋼)の部分よりも粒子の作用が強く出てしまうと均一な面に仕上げるのは難しいです。
これはオレンジ(1000番)に限らず刃の黒幕シリーズのグリーン(2000番)やエンジ(5000番)でも同一の現象が起きてしまう事を確認しています。
刃先をキンキンに研ぐように意識しながら研いでも何故か小刃のように研げてしまう事が少なくないのです。
もしかして結束した粒子が梃子(てこ)のように作用して刃先だけが砥石に当たっているのではないか?と思えるほどベタに研げない時があるのです。

そんな経緯が有り、最近は専らなにわ砥石の響や剛研をメインに使ってます。

閑話休題。

昔助房の鎬面に窪みは殆どなかったので響3000番に移行しました。




そのまま響8000番で仕上げてみました。




間に6000番を入れてもいいのですが3000番が高性能ですのでいきなり8000番でも大丈夫です。

ここから更に超仕上げの天然砥石に移行するべきところなのですが初回研ぎの様子見としては一旦ここまでにしておきます。

今助房のダルメシアン状態も一旦ここまでにしておきます。

裏ですが完全平面になるまで裏押しすると瓢箪裏になりそうなので刃先が砥石に当たっているところで止めておきました。瓢箪裏でも切れますが下ろしたての小刀がいきなり瓢箪裏になるのは寂しいので。

切れ味はどうでしょう?!


2本ともとても良く切れます。
ダルメシアンでも刃先部分は平面なので良く切れます。


ほんの少しだけ昔助房が切れ味が良いように感じますが刃角度が1度だけ鋭角のおかげもあるのかもしれません。
刃の形状が少し曲がっている昔助房の方がチョットだけ使い心地がいいですね。
でも思い込みかな。


結論として今も昔も助房は助房であって良い小刀である事に変わりはありませんでした。
推測ですが製作者は変わっていると思います。
それでも技術は継承されて助房は続いているという結論に至りました。