王鋼じゃないよ玉鋼だよ。菊弘横手小刀120ミリ玉鋼

包丁や鉋、小刀に押されている玉鋼という刻印。
オークションでたまに見かける「玉鋼」と刻印された小刀。これが入札が多いのなんのってビックリします。
なんでも鑑定団の刃物鑑定で有名な土田刃物の店主・土田昇氏のX(旧ツイッター)ポスト(以前はツイートと言ってましたよね)によると、こういった玉鋼の刻印は偽物が殆どであるという。玉鋼とは砂鉄を原料にしてケラ押しという作業によってできるらしい。

玉鋼(たまはがね)とは、日本刀の製造に欠かせない、砂鉄を溶かした鋼鉄の一種です。玉鋼は、日本の古式製鉄法であるたたら製鉄の一方法である「鉧押し(けらおし)」によって直接製錬された鋼のうち、特に炭素含有量の少ない良質のものを指します。玉鋼は、非常に純度が高く、炭素量は約0.3~1.5%です。また、不純物が少なく、硬さも丁度良いため、錆びにくいです。玉鋼は、明治期以降の呼び方であり、時代によって定義や等級分けが異なります。玉鋼は、日本古来の「たたら製鉄」の技術でのみ製造できるもので、この技術は、古墳時代以降、1000年以の年月をかけて研究され江戸時代に「近世たたら」として完成されたと言われています。

Wikipedia玉鋼より

私の拙い考えでは玉鋼はたたら製鉄によって作られたものだけを指し、他の物が玉鋼を名乗ることは許されない!なんて思ってたんです。
上質なランクのモノは日本刀に使用して二枚落ち三枚落ちランクのモノは包丁やなんかに回されると勝手に思っていました。
要は砂鉄を溶かして炭素と融合させればそれは玉鋼と同等(の成分)ということか←怒られそう

東京青梅市で玉鋼を自家製造して刃物を作っている平田鍛刀場さんは御夫婦で子育てをしながら玉鋼製作に勤しんでいらっしゃいます。
奥さんは人生で初めて打ち込めた事が玉鋼製作だったそうで、私はグッと地球便で初めて知って思わず涙してしまいました。
包丁はなかなかの御値段ですが、その労力と存命の限り永久保証という粋なはからいを考えると適正価格だと思います。
ロストテクノロジーとなりつつある玉鋼の包丁、いつか購入したいです。

オークションにたまに出る玉鋼小刀ですが話のネタに一本は欲しいと思いつつ共柄切り出しでも5 千円とかになってしまうので何年も落札できずにいました。適正価格で3000円くらいだろうと入札して高値更新されたら諦めるという事を繰り返していたんです。
今回の菊弘小刀ですが玉鋼の文字が薄く、うまく行けば「玉鋼」ではなく「王鋼」なんて勘違いされて入札が少ないのではないか?というスケベ心で入札してみましたところ意外にも安く入札できました。タネを明かすと同じものが何本も出品されていただけなのですが。

仕様・自家鍛接鍛造火造り
価格・2800円
鋼材・玉鋼?
全長・243ミリ刃長(刃渡り)・62ミリ
巾 ・22ミリ厚み・3.2-4.5ミリ
刃角度・35度重量・101g(鞘込み)76g(鞘無し)

有限会社永桶菊弘丸刃物製作所のものだと思いますが特定はできません。

35度という刃角度はかなりのもの。
細部はかなり考えて作られていますね



玉鋼の着鋼は容易いらしい


そのままだと切れなかったので研ぎました


シャプトン#1000→響#3000→キングG1#8000

こんな感じの軽いセッティングです。
研ぎやすい感じはありましたがそれが玉鋼だからなのかはわかりません


刃角度35度なので刃先はポロ欠けする事もなく割と簡単に研げました



肝心の切れ味ですが、鈍角なせいもありやや押しが重いです。玉鋼だから魔法のようにサクサクと切れはしませんでした。

この値段で最高峰の玉鋼は無理でしょうし仮に最高峰だとしても安来鋼に優るかどうかはわからない。
私は大きな差は無いと考えます。青紙においては耐摩耗性で上回るのではないかとさえ思っています。
本当に無知でわからないので知ったかぶりでゴメンなさい日本刀作ってる方が見たら怒られそう。
玉鋼について解りやすい解説をしてくれている刀鍛冶さん

真贋についてですが後藤包平さん(東雲玉鋼銘)に玉鋼の複合材を卸していたという問屋さんの証言を聞いていますので等級はともかく市場に出回ってはいるのでしょう。
ただ、玉鋼という商品名や刻印は商標登録の関係上現在は使えないと思います。
寿司屋さんとか日本酒製造とか刀匠には一切関係ない会社が登録していますが、これってどうなんでしょうか?
今回の菊弘小刀ですが偽玉鋼では無いにせよ等級落ちの玉鋼モドキというところに落ち着きそうです。
私は二度とオークションでこのような小刀を買うことはないですが、貴方は今後も玉鋼という刻印に高いお金を払いますか?

最後に岩崎先生の玉鋼について触れた記事を引用して終わりたいと思います。

玉鋼で西洋剃刀を作って、、焼入れをしてみて驚いた。半分以上が割れてしまった。西洋剃刀は全鋼で、冷却剤は水を使用した。水で割れるんなら、油で焼入れしたらよかろうと、多くの人は云う。やって見ると、 油では、刃先二、三分幅に焼が入るだけで、あとは全く焼が入らない。玉鋼に対しては、 油は全然不向きである。冷たい水では割れるので、少し湯を入れて、温かくして焼を入れたら、雲がついて失格 である。雲がついては困るので、焼入れ温度をあげたら、今度は曲がってし まう。直そうとして軽く叩くと、制れるし玉鋼の焼入れの困難さには全くまいってしま った。昭和二十七年から、もう十年は過ぎているのに、今でも時折製品の半分以上を、焼で失 格させることがある。一体、原因が何処にあるのか、それはわからない。要するに玉鋼は、焼の入りにくい性質を持っている。これが大量生産の邪魔をする。併し、この性質が、日本刀の焼刃を美しくさせる。日本刀の刃文の直刃と乱刃は、誰か 焼いても必ず出現する模様である。もし日本刀を、全面完全に焼を入れろと云われたら、刀鍛冶は割れを防げなくて困るだろう。日本剃刀は着鋼であるから、軟らかい地鉄のお蔭で、割れることは殆どない。また焼で 曲がっても、軽く叩けば直る。但し油断をすると、雲がついて、失敗する。日本人が着鋼を発明発展させたのは、大した技術である。昔の人が全鋼で苦労した末、この方法を見つけたものと思う。外国の刃物は全鋼であるから、割れ、曲がり及び雲で困ったに違いない。その結果、どうしたかと云えば、油で不完全な焼を入れて、軟らかい刃物を作った。だから牛刀とか外国の鎌は、丸鑢で刃がつくのである。硬い刃物が欲しい場合、外国人はどうしたかと云うと、焼が入り易いように、クロムと かタングステンを混ぜた。即ち特殊鋼を使ったのである。彼等の最も多く使ったのはクロムである。打刃物鋼に、タングステンを混ぜたのは、日 本の安来鋼の青紙だけである。青紙の手本になったのは、英国製の大砲を削るバイトの 刃である。砲兵工廠から屑鋼として出たものを、越後三条の初代永桶永弘が使って見て 、成績がよいので、安来鋼の工藤治人博士に送て、これと同じ鋼を作るようにしたの である。大砲を削るバイトだから、一種の高速度鋼である。独逸とかスエーデンの剃刀は、タングステンを入れず、クロムだけを入れている。日本の玉鋼は、如何なる鋼よりも純粋であるから、切味は正に世界一である。だが焼入 れの困難は大きな欠点である。その上もう一つ困る性質がある。それはグラインダーで研磨して仕上げをしてゆく時、少し熱くなって、焼戻しを部分的に受けると、忽ち刃がくねくねと曲がって、廃品に なるということである。急いで西洋剃刀を仕上げようとするほど、よく曲がる。と云っ て水を掛けながら作業をすると水の為に表面が見えないので、精密な仕上げが出来ない。斯くして玉鋼は原料として世界一の優秀さを示し、切味も最高ではあるけれども、鍛錬 、球状化、焼入れ、仕上げ等の困難があるため、どうしても名人芸の少量生産になり、値段も非常に高いものになって、近代工業の対象にはならない。まことに惜しいことで ある。(「刃物と販売」三十八年十二月第七十二号・昭和三十九年一月第七士二号)を三条金物青 年会が刊行した「刃物の見方」が収録したものを転載しました。

日本刀の原料の玉鋼の如きに到っては、最も難しい。自信のある刃物鍛冶が、よく玉鋼を分けて呉れと云って来られます。分けて上げるんですが、焼入れの所で皆手を挙げて了います。切出小刀を造って、焼入れして見た人があるのです。仕上げて見ると、刃先から奥の方へ三分(九ミリ)位しか焼が入って居りません。奥の方は焼が入らんのです。乱れ焼になるのです。鋼の部分全体が、ピタッと焼が入るべきものを、刃縁だけしか焼が入りません。優秀な鋼は焼が入り難いという原則があるのです。それを上手に焼を入れるのが、ウデの出し所なんですナ。上手に焼の入ったものは、研ぐととても砥ぎ易い。ザクく、ザクくとおりるのです。その癖木にかけると、いくら使ってもビクともしないのです。焼は入りにくいけれども研ぎ易い。其の他赤めて金鎚で叩いて見ると、実によく伸びるのです。型打ち鍛造などをやったら、型はいたみはしません。よく潰れるのです。それを青紙なぞ持って来て型打ちをして御覧なさい。型の方がヘタバッテしまう。ダメです。此の他に刃物鍛冶は、鑢掛りとか、或はセン掛けによって、鋼の善悪を調べるのです。鎚当たりがよくて、軟らかい感じで伸びがよく、鑢の掛りがよくて、センでよく削れるのを見て、これは優れた鋼だという鑑定法があるのです。どういう成分が入って来ると、そういう性質になるか、どんな熱処理でそうなるか、未だに不可解の所が御座います。スェーデンの鋼は実に伸びがよい。飴みたいですナ。焼を入れると、ピッとするのです。どういう訳か、理屈は判らんけれどもそう云う物があります。日本の玉鋼は、赤熱して叩いて見ると、まるで地金(かね)の様に軟らかい。それでいて焼を入れると、ピンとします。研ぐとサッとおりるのです。

以上となります。各自の判断に役立てば幸いです。