蜜蝋ワックスの防水防汚効果・色々試してみた

小刀を使っていますと誰しもが必ず鞘や柄の汚れ問題に直面します。
柄に入ったままの状態で砥石を使用して砥泥の付いた手で触れたり、黒檀やローズウッド系の色物唐木を削った後などは直ぐに柄が汚れてしまいます。
楽器製作はヤスリ(サンディング機器等)も多様するので手に付着した色粉が柄の多孔質の穴の奥に入り込んでとても厄介なんです。

真っ黒になったまま使っている方も多いですが、私の場合手に付着した汚れが他の部分に色移りしてしまうのが嫌なので最初に防水防汚加工してから使っています。
当サイトで過去に紹介している防水防汚方法として小刀購入時にするべきことを始めウオールナットオイル等の乾性油を塗布するやり方やラッカー系塗料を塗布する方法があります。その他には柿渋や漆塗りなんかもありますが柿渋は異臭が凄いですし、漆はカブれる体質なので試していません。

ホルベインのビーズワックスを刷り込んでいた時期もあったのですが出張が多い時期は融解ができないためラッカーに頼る事が多くなっていました。
ラッカーは最強でメンテナンスフリーですが、それをいい事に放置してしまう自分の性格からすると、たまにケースから出して点検しなければ気がかりになるオイルフィニッシュや蜜蝋ワックスが適している事もあります(蜜蝋やオイルフィニッシュでカビたことはありませんけれども)。

以前購入した蜜蝋ワックスが盗難された小刀ケースに入っていて手持ちがありませんでしたので暫く使っていませんでしたが、たまたま近所のホームセンターで蜜蝋ワックス缶を見つけて成分を見たところ(蜜蝋・えごま油)と書いていましたので購入してみました。
蜜蝋の堅牢さとえごま油のしなやかさと被膜形成力の融合は鞘柄に良いのではないか?と思ったからです。

他にも色々と蜜蝋ワックスが販売されていますので亜麻仁油配合のものを買ってみました。
成分の明記が無いものと非乾性油(椿油、菜種油等)を使っているモノを除外すると鞘に使えるのは多くはないですね。

比較の為にビーズ形態の100%蜜蝋と純正亜麻仁油も買ってみました。
100%蜜蝋はレンチンで融解してから塗るのですが伸びが悪く浸透性もイマイチです。そのまま塗布できる手軽さを考えるとオイルブレンドされたモノが便利です。
純正亜麻仁は一見良さそうに思えますが乾燥に時間がかかりますのでそこが最大のデメリットになります。

今回は比較動画を作りました。

①未晒し蜜ロウワックス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

塗った直後からどんどん色が濃くなっていきます。
触るとサラサラしていますが手に油分が移ります。
そして少し匂いがします。
エゴマ油は少し匂いがあるようですね。乾いたらどうなるのかな。
10日くらいしても手に油分が移るので一ヶ月以上放置しましたところ完全に乾いたようで(内部は乾いていないかもしれません)琥珀のように変化しました。

シブい!

手に油分も移りません。

匂いが少しありますが嫌な匂いではないので気にならないと思いますがWikipediaによるとこの匂いはペリラケトンという成分からくるもので不快に感じる方も少なくないそうです。
乾燥が遅いのと僅かな匂いがあるというという微デメリットがありますが防水効果はまぁまぁ宜しいかと思います。

防汚効果に関しては茶色い微粒子の顔料を塗り込んでから拭き取りましたが、これも良い結果だと思いました。
微粒子テストはかなり過酷なテストなので一般的な汚れにはもっと効果を発揮すると思います。

②次は亜麻仁油配合のタイプです。

亜麻仁と書くと麻という文字が入っているので大麻の亜種なのか?有害じゃないの?と思う方がいらっしゃると思うのですが、一切関係なく亜種という事でもないのです。Wikipedia亜麻仁
亜麻仁油は古くから食用や油彩画の絵の具に用いられたりしてきましたので馴染み深い存在です。
余談ですが亜麻仁油は黄変があるので絵の具に用いる場合は白色絵の具には不向きとされています。
白色にはポピーオイル(阿片とは無縁のケシ油で亜麻仁よりも乾性が遅い)が良いとされています。
油彩画では、黄変はあるが乾きの速いサンシックドリンシードオイル(紫外線が多い月の太陽に晒した亜麻仁油)や同じく乾きは速いが黄変の激しいボイルドリンシードオイル(鶏の羽を入れて焦げ具合を確かめながら加熱した亜麻仁油)や黄変が少なく堅牢な被膜を形成するが乾きはやや遅いスタンドオイル(350度で煮沸して重合した亜麻仁油)などがあります。
さて、この蜜蝋ワックスに入っている亜麻仁油はどの程度の黄変なのでしょう?エゴマ油がかなり変色したのでそれ以上なのか、それとも?

3日程で手に移らなくなり、一週間経過で完全乾燥しました。かなり速いと思います。
乾性油というのは含まれるヨウ素やオレイン酸、リノレン酸等によって乾燥が促進されるそうなのですが、えごま油>亜麻仁油>ウオールナットオイルという順でヨウ素価が高いと言われていまして、それなのに、えごま油よりも亜麻仁油の方が乾燥が速いということは一概には言えない、使ってみないとわからないという油の等級や天然素材故のもどかしさは感じました。
黄変というか黄金色に変化したように思います。
風合いとしては良いですね。
匂いもしません。
防水効果は撥水性がかなり高いです。
防汚もまぁまぁかな。
手入れの度に塗り重ねると効果も増えていくでしょう。

③次は生蜜蝋の出番です。

ビーズタイプで脱臭脱色してあるやつです。未晒しの黄色いタイプも出品されていますが色が濃いのとミツバチが採取する花粉によって匂いが違うようで蕎麦花粉を採取した巣から取れた蜜蝋は強烈な匂いがするという噂がありましたので脱臭脱色タイプにしました。
※脱臭脱色タイプでも蕎麦の花粉が入っている可能性がありますので重度の蕎麦アレルギーの方は蜜蝋は止めた方がいいと思います

レンチン5分の後ウエスで刷り込むのですが溶けた蜜蝋は熱いので最大限注意が必要です。

防水効果防汚効果共にイマイチ。
延びが悪く塗りにくいのと、すぐに固まってしまって浸透しないのが原因。
無理に重ねるとデコボコになってしまい、後で苦労します。
とても扱いにくいです。
大量に溶かしてトプンと浸ける手もあるのですが被膜が厚くなり固まるとポロポロ欠けてしまうので止めたほうが良いでしょう。

④次は純正亜麻仁油

塗りやすいですが乾燥に時間がかかります。
二週間程度みたほうがいいでしょう。
生乾きで使ってもサラサラしているので手に付着しても気にはなりませんが少し匂いがします。

防水はなかなかに強いですが防汚はイマイチですね。
浸透性が強いので鞘材の凸凹が埋められず微粒子が食い込んで取れない感じですね。
蜜蝋単体でもイマイチ亜麻仁油単体でもイマイチ。二つが融合して初めて真価を発揮するという事か

⑤ワシン・サンディングシーラー

やっぱりラッカー系溶剤はすごいですね。
防水も防汚も文句なしです。
塗る時の臭気や換気さえ気をつければこれほど強い防水防汚対策は無いでしょう。

蜜蝋ワックスは何度も塗り重ねて手入れそのものを楽しんだり色の変化を愉しむ要素もありますので一概にラッカー最強とは言えません。色々と試して自分に合う方法を見つける参考になれば幸いです、