捨てる神あれば拾う神あり〜研ぎ下手の末路

お正月休みで時間が有り余っていたものですから結構な数の切り出し小刀、横手小刀、繰り小刀を研ぎました。
今回の記事はその中の一例のお話です。


坂光の繰小刀をまず柄から抜いて、ダイヤ砥石で表裏の平面を出して荒砥君で均してから#700に移行して順次仕上げに進みました。
まぁ、目新しい事もなく一般的な研ぎですね。

古い繰小刀は元から硬いのか時効硬化で硬いのか、中砥の段階で鋼と鎬面の軟鉄を均等に研ぎ進めるのはかなりコツが必要です。
単に下手なんでしょうけれど、ちょっと気を緩めると刃先の研ぎが追いつかないという事になるんです。

裏面は輪をかけて大変です。古い繰り小刀は歪んでいることが多く大幅に削らないと平面が出ません。



本当は刃先の直下の裏さえ平面であれば切れるので普段はここまでベタにはしないのですが、長期休暇という事もありまして、いつもより先に研ぎ進む事で坂光7856号の最大性能がそこにあるのではないか?というおかしな妄想が湧いてしまいまして、勿体ないという思いと戦いながら瓢箪裏スレスレまで裏出しをしたのでした。(瓢箪裏が恥ずかしい事だよ、って誰が言い出したのでしょうか?私は恥ずかしい事とは思っていません)
※下写真右は未使用の坂光。糸裏に近い。


こういう場合はシャプトンのオレンジ(#1000)がとても役立ちます。
本当はダイヤ砥石の段階で完全に平面を決めたいのですが削りすぎが心配なのとダイヤ砥石は目詰まりを起こしてからの回復が不便であるのと、手や部屋が黒粉で汚れるのが嫌で最終調整はシャプトンオレンジでジワジワ攻めるというのが私流なのです。
次の段階ですが最初に#3000の響をチョイスして研ぎ進めました。
が、鋼部分の反応が悪く刃先が研げずに鎬面ばかり研げてしまうのでオールシャプトンで進めることにしました。
#2000(グリーン)は研磨力があって使いやすいです。シャプトンでも一番人気ではないでしょうか。


#5000(エンジ)も反応が良いです。


#8000(メロン)も好きな砥石です。


※少し話が横道に逸れますが、以前シャプトンはじゃじゃ馬であるという記事を書きました。
小刀を研ぐという事を考えた時にシャプトンは平面維持に難があるのでは?初心者には扱いにくい砥石ではないのか?以前と比較して品質に変化があるのでは?というアンチテーゼを投げかけました。
しかし、欠点を知って、それでもなおシャプトンの良い部分に優位性があると感じて欠点をカバーしながら今後も使っていきます。と締めくくりました。
その記事の中でシャプトンを水に漬け過ぎると溶けてしまうよ、説明書に書いてあるよ、実際溶けた事もあるよ、と書いたのですが、その事に対して某掲示板で「彼(私の事)は小刀の事も無知であるからシャプトンの事も嘘の情報を書いている。シャプトンの平面は崩れない、シャプトンは溶けない」と書き込んだ方がいました。
説明書の写真まで添付しているのに見えないのかな?と思ったものです。
私は自分が無知であることをしっかり理解しているつもりです。だからこそ日々一生懸命模索しています。そして小刀のことに関しては嘘はつきたくないですし、今後もつきません

話が横道に逸れてしまいました。
#8000まで辿り着くのにかなり時間を要しました。
3時間?もう少しかな?

メロン(#8000)で研ぎ上げて切れ味を試しますと良好でしたが、表面をもう少しピカピカにしたい、対象材の切れ肌をツヤツヤにしたい、と思いましてシャプトンクリーム(#12000)で追い砥ぎしたのです。
クリームは過去に使って実績がありましたが、手元に無かったので昨年買ったやつです。

使って数秒で違和感がありました。
ガリッと手に感触がして鎬面に深い傷が付いてしまいました。
うわぁ〜!やってしまった。。。。。
半日近く費やして最後の最後でやらかしです。

何かを怠ったのでしょう。
思い当たる事と言えば前段階で砥いだ砥糞が鎬面に付着していたとか、力加減を間違えたとか、ストロークが長すぎたとか。。。。
#1000~#8000までは同じように使っていてこのような事は一度も発生していないし、同じように入念にケアしたはずなのに。。。。見落としがあったのかな。
しかしあれだ、ここまで気を使うのが億劫だから天然砥石ではなくて人造砥石を使っているのに、やっぱりじゃじゃ馬っぷりを見せてくれるじゃないの、シャプトンさん。

そこでもう一度小刀の鎬面を入念に洗浄して、念のため砥石本体にアトマを掛けてから#8000で均しました(本当は同じ砥石で擦り合わせるのがいいのですが)。

よし、気分一新、まだ挽回できる傷だと思いながら研ぎました。

ガリッガリッ

ええ?えええええ~

致命的な深傷、これは駄目だ。
※動画はわかりやすくするため他の坂光を広範囲で研いだものです

身体から力が抜けてフニャリとなってヘナヘナと座り込んでしまいました。
時間を返してくれ。。。


その日は疲れて作業中止。

翌日、改めてシャプトンクリームを観察してみました。
指先には何も当たりません、ツルツルなのです。
色々な小刀で研いでみたのですが、全て傷まみれになってしまいました。




そしてこの傷は深く中々取れない厄介なモノでした。目詰まりよる傷なのだと思います。研げ落ちた微細な破片が表面の小さな小さな孔に嵌まり込んでイタズラしているのだと予想しました。


以前持っていたクリームはここまで神経を使わなかったぞ?別物になってしまったとしか言いようがありません
ストロークを変えたり力加減を変えたり水を流したままやってみたりしても駄目です。

そもそもそんなコツが必要な人造砥石って人造砥石として意味がないだろうと思うのです

説明書に従って5分間水に漬けていましたが15分間に延長して肥後守を研いでみました。
少し一見ピカピカですかがヘアラインが無数に残ります。そしてまぁまぁ深いのです。
※動画は自棄になって広範囲で研いだものです

では、実際切れるようになったのか?と聞かれますと、なんと、まぁまぁ切れるようになりました。
え?!切れるんだ切れるのであれば文句は言えないのかな?
しかし、これだけの傷だと屋外使いでは錆の原因になりますし、木工では軟材に筋傷が入ってしまうので看過できません。
なるべく目詰まりしないように優しく扱うのですが1ストロークでご覧のように黒くなるほどの研削力なので直ぐに目詰まりしてしまうのです。

あらゆる試行を繰り返し、研ぐという目的からは完全に脱線して虚無な時間が経過していきます。
そして、、、諦めました。

シャプトンさんに調査依頼しようとも思ったのですが、時間がもったいないので今後使用しないという選択をして(♯8000以下は変わらず使用します)森平の火シリーズ♯12000を購入して使うことにしました。


青砥で傷を消して♯5000→♯8000とやり直して森平で仕上げて完成しました。
傷は深く完全には消えていませんが良く切れる刃が付きました。


森平の火シリーズはお値段が張りますがとても良い砥石ですので今度ゆっくりリポートします。

年初からモヤモヤが残りましたが、また一年頑張るぞという決意をした次第です。