一刀流肥後ナイフ・魚鬼イトウ・ステンレス鋼の性能は如何に

魚辺に鬼と書いてイトウと読みます。
日本最大の淡水魚で、現在は北海道にのみ生息する絶滅危惧種の鮭科イトウ属の幻の(とも言われている)魚です。
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今回紹介する肥後ナイフには魚鬼(漢字が出ないので魚と鬼を並べて記しています)という文字が鞘に刻印されています。
はて?兵庫県にある株式会社ビッグマン工作所が何故北海道の幻の魚を商品名にしているのでしょうか?アウトドア繋がりという事かな?


違和感を感じて北海道の釣り好き友人にスクショを送って見てもらったところ予想通りの返事がありました。
「ダサいな(笑)」
やはり北海道のアウトドアマンからすると安易に魚鬼とナイフを結びつけるのは違和感があるようです。
もちろん水族館では見ることができますし(千歳山水族館様・小樽水族館等で見れます)

最今では魚鬼の養殖にも成功しているので管理釣り堀にも魚鬼はいますので関連が全くない話では無いのですが。。。。
実は今回私が注目したのはネーミングではなく鋼材でした。SUS420とAUS8という焼入れ可能なマルテンサイト系ステンレス鋼の肥後ナイフはとても珍しいと感じたのです。
3枚構造のクラッド材(複合材)だと思うのですが、おそらく真ん中にHRC硬度最高値56〜58のAUS8を配置して両サイドにSUS420を配置したサビに強いアウトドアに最高の肥後ナイフをぜひ入手したいと思い購入しました。


肥後ナイフと連呼していますが一刀流の肥後ナイフを永尾駒製作所のOEM製品であるという説もあり、実際全く同じシルエットの商品もあるのですが、今回紹介する一刀流はチキリ部分もプレス加工されており明らかに永尾駒製作所の肥後守には無い形で確証がありませんので、あえて肥後ナイフと書かせて頂きます。
ステンレス鋼の肥後ナイフと言えば肥後守V金10号が思い浮かびまして、これは永尾駒製作所イチオシの逸品と言えるかと思います。
あとは3枚構造じゃないですがステンレス全鋼の肥後ナイフはホームセンターで目にしますが研ぎにくいしあまり切れないという話を耳にします。研ぎにくくて研ぎ切れないから結果として切れないという事になったのか、はたまた持てうる研ぎ技術を駆使して研ぎ上げても鋼材そのものの切れ味が悪いのかは私は購入したことが無いのでハッキリ言えません。
ステンレス鋼と言うだけで切れないイメージがあるのも事実で(私の心の片隅にもステンレス=切れないというイメージがあるのかもしれません)、錆びにくいということの代償として切れ味を放棄してしまったのか?錆に強くて最高の切れ味が実現できているのか?この目で然と確かめたいと思った次第です。スペックになります。
仕様・複合材プレス物
価格・1580円
鋼材・AUS8/SUS420
全長・180ミリ
刃長・82ミリ
巾 ・14ミリ
厚み・2.5ミリ
刃角度・21度

比較として肥後守V金10号のスペック
仕様・複合材
価格・3900円
鋼材・V金10号
全長・170ミリ
刃長・75ミリ
巾 ・13ミリ
厚み・2.7ミリ
刃角度・20度
ちょっと補足が必要になります。
・複合材プレスとしましたが箱の説明には火造りと書いてありますので熱間鍛造している可能性があります
・価格はAmazonでたまたま安かったようで実売価格は2400円くらいのようです
・鋼材はAUS8が真ん中だと予想していますがSUS420 が真ん中という事も考えられます
肥後守V金10号大サイズと比較すると少し大きいです。鞘の形も違いますので打抜き型は別物ということです。
本家肥後守とはチキリ部分が大きく違います。




プレス抜きっぱなしという感じですが、これは悪くないです。
硬い木を削るときも親指が痛くないですし、元祖肥後守みたいに一つとして同じものがないような鍛造品だとハズレ品に当たる事がありますので精度が高いのは好印象でした。


元祖肥後守はチキリ部分は軟鉄ですので缶の蓋を開けるのに使うと簡単に曲がりますが一刀流は少しくらいでは曲がらないです。ただし先端は太いので横にしないと差し込めない場合もあるかな(そういう使い方するなよって話ですが)


箱出しの刃先を見ると凄い小刃が入っていますね。




切れません。
切り口がボソボソで音で切れない感じも伝わるかと思います。
全然切れなくて泣けてきます。これは研ぐ事ができる方じゃないと買わない方がいい、というくらい切れません。

いや、現時点で研いで切れるようになるのかもわからないのです。←不安
ステンレスは研ぎにくいとか欠けやすいとかいう噂がありますが、和式小刀しか知らない私は日々の青紙白紙また白紙、たまに黄紙でまた青紙というルーティンしかしておらず、ナイフ鋼材の事をほとんど知らないので手探りで研いでいくしかありませんが、予め検索して予習しておきますと

日本製ステンレス愛知製鋼が生産している。 AUS-6を元に改良されたもの。 錆びに強いが硬度はHRC56~58とやや劣る。ただしその分加工性が良いので、ナイフ自体も大量生産がしやすく価格的にもリーズナブルなナイフが多い。 入門用として扱いやすいナイフが多い。

フムフム

最近注目されているAIのChat-GPDに聞いてみますと

AUS-8ステンレス鋼は、耐腐食性に優れ、研ぎやすく切れ味がよく、比較的強度が高いとされています。また、相対的に低価格で手に入りやすい鋼材の一つです。ただし、高硬度や耐久性が必要な用途には向いていません

研ぎの参考にはならないなぁ。。。。でも愛知製鋼製と聞いただけでちょっと安心できましたし、ネット上では研ぎやすい鋼だという見解が多いです。
それでは小刃を落としていきます。というか、小刃落としがメインになりますね。
ダイヤで削っていきましたが途中から荒砥くんに変えて地道に研ぐこと2時間、ようやく小刃がなくなりました。

研ぎにくいという感じはなく単純に初期の小刃がエグすぎるということ。
シャプトンメインで研いだのですが途中♯2000まで研いだところで試し切りをしましたが全然切れなくて焦りました(写真は#1000)。


このまま研ぎ進めても切れないんじゃないの?という不安に襲われます。
元祖肥後守のSK鋼や青紙鋼製も最初は小刃が付いていますが小刃を消さなくてもソコソコは切れますので使いながら小刃を消していくというやり方が通用しましたが、一刀流なかなかどうしてピーキーな香りがします。
シャプトン♯5000まで研いで試し切りすると急に少し切れるようになりましたが、まだ追い込めそうです。


♯8000メロンで研ぎ上げました。


研ぎ方のコツとしては曲線になった部分を均等に砥石に対して直角平行に当てていくことですかね。


何も考えずにベタ研ぎを続けると刃が直刃になってしまいます(私は下写真のように意図して直刃にして研ぎ易い形にすることが多いです)



研いでいくにつれて鎬ではない部分にも霞がかかっていることに気付きました。ブラストか砥の粉を吹き付けているのでしょう。

合計3時間程研いで一応完成。凄く切れるようになりました。これは良い。

が、ここで問題発生!軟材を削っただけなのに刃先が欠けてしまったのです。

この症状をどう見るか。
鋼材の性能として靭性に弱点があるのか、刃角度の問題なのか、初期特有刃先の焼入れ脆弱性の問題なのか、今はまだわかりませんがこのままでは使えそうにないので様子見的に極小の小刃を入れて完成です。
切れ味がさほど落ちることなく刃先が丈夫になりました。

かなり研いだつもりですが機械研ぎの跡が残っています。
写真ではあまり目立ちませんが研ぎマニアの方からするとむず痒さが残るのではないでしょうか。


しかし、これをしゃかりきに研ぎ進めると裏表のバランスが悪くなるので断腸の思いで止めました。

まとめ
一刀流肥後ナイフ魚鬼はステンレスでアウトドアに強いですが、箱出し状態では切れ味に難がありそうです。
小刃を落として研ぎ上げることができればかなりの切れ味になります。
研いだ印象は研ぎやすい部類に入ると思いました。
刃先の耐久性については今後も観察が必要ですがマイクロベベル(極小小刃)を入れると問題なく使用できるでしょう。
コストパフォーマンスに優れた良いナイフで渓流に連れていってロープを切ったり魚を捌いたり小料理に使ったりガシガシ使いたいと思いました。