左久作・共柄切り出し小刀24ミリ・八倍値段の価値とは

たまにインターネットで購入させてもらっている鋼材屋さんに左久作さんのベーシックな共柄切り出し小刀があったので購入してみました。
久作さんの小刀は和鉄のやつを一本持っているのですが勿体なくて普段使いできないでいたので気兼ねなくガシガシ使えるやつが欲しかったんです。


と、言っても16000円。
小刀に16000円は高いのか?小刀を一本作ろうと思ったら一日以上かかりっきりという事を考えたら安いと思います。
まぁ一本だけ作るわけじゃない(後述しますが今回のは一本だけの可能性があります)のだろうけれども手間を考えると決してボロ儲けできる商売じゃないと思います。材料費を考えたら日当出てるのか心配になるレベル。
ですから私は良い小刀には喜んでお金を出します。でも世の中には切り出し小刀で2000円なんてのも沢山売られてますよね?何倍も値段の違う小刀に違いはあるのでしょうか?あるとしたらどんな違いなのでしょうか?今回は同じサイズの安価な小刀と比較してみたいと思います。
さて、件の鋼材屋さんから電話がありまして同時に購入した人がいて売り切れになってしまったと言われました。
左久作さんに連絡したら直ぐに作るから10日待てるか?との事。当然待てると返答しました。
できたてホヤホヤの小刀に歪み等はあるのか知るいい機会ですしね。
それにしても数年待ちと言われる左久作さんにイレギュラー注文できる鋼材屋さん、よほど信頼があるのでしょうな。更にそれに応えて10日で作る左久作さんも頼もしいです。
その後完成したよメールが届かないなどのトラブルがありまして二週間で手元に到着。
箱書きには白紙一号と書いてありました。


そう言えば購入時に気にしてなかった。久作さん旧日立の白紙も使うのね。当然なのだろうけど珍しい気がする。
箱を開けて驚きました。




定価22000円と書いてあるではありませんか。そう言えば電話がきた時に、
「この度値上げになったそうなんですが注文時の値段で良いですからね」とか言っていたけど仕事中で周囲がうるさくてあんまり聞こえてなかった。
6000円もオマケしてくれたのか。儲ける気ないというかなんというか、、、有り難くお受け致します。
久作さんと言えば古鉄が思い浮かびますが普段使いですから極軟鉄です。私には極軟鉄で十分なんだナ。
流石久作さん、ただならぬオーラが出ている、、、気がする。
私のような雑魚小刀収集家でも感じる事ができるのは御値段からくるプラシーボ効果のせいではないという不確かな確信があるのでした。

仕様・自家鍛接鍛造火造り
価格・16000円(現在は22000円)
鋼材・白紙(極軟鉄)
全長・200ミリ
刃長(刃渡り)・55ミリ
巾・八分(24ミリ)
厚み・3.5-4.1ミリ
刃角度・24度
重量・127g







重すぎず軽すぎず、握ると吸い付く感じは数十年来の相棒のようだ。


手持ちの古鉄タイプは小刃が無い完全フルスカンジだったけれど今回はほんの少しだけ小刃があるように見える。


果たして研ぎ上げて良いのだろうか?とりあえず暫くはこのまま使ってみる事にするか。
届いて直ぐの小刀に歪みはなく完全に真っ直ぐでしたが記事を書いてる間に数週間が経過して先程もう一度定規に乗せてみると、なんと歪みが発生していました。これは驚きです。
残留応力なのかマルテンサイト化なのかは分かりませんが、こんな短期間で影響あるんですね。
研ぎながら修正していく事になるかな。




さて、同じ八分の小刀と比較してみたいと思います。音丸切り出し小刀八分2800円です。
あの三条の鍛冶屋さん製です。
デットストックなので2800円ですが現在なら5000円以上はするかな?それでも左久作さんの1/4-1/8くらいの値段です。
当然複合材です。複合材にする事によって鍛接に要する時間は省略できます。同時に10本20本と作る事でコストダウンできるんですね。
スペックは
仕様・利器材火造り
価格・2800円(フリマサイト価格)
鋼材・白紙(1号か2号かは不明おそらく2号)
全長・205ミリ
刃長・60ミリ
巾 ・24ミリ
厚み・3.5ミリ
刃角度・30度
重量・109g

久作さんのものより刃角度が5度鈍角になっているが重量はかなり軽い。長時間使用するには有利だと思うけれど複合材特有の殆ど全ての場所の厚みが同じなので持ちやすさという点では疑問が残る。
見た目は野暮ったいという事はないが左久作さんのスタイリッシュな見た目と比較すると少しだけ見劣りしそう。
裏鋤は叩き出しとセン鋤(すき)の違いがあるが切れ味に影響は無いのではないかと思っています。セン鋤の方がカッコいいと感じるのは私の偏見によるものかもしれない。


手に持った感じは左久作さんに軍配が上がりますね。
音丸が持ちにくいという事ではないですが馴染み深いのは久作さん。長い時間をかけて使い手の意見が反映されているのでしょうか。

さて、切れ味はどうか?
どちらも切れます。
音丸、引けを取らない切れ味。
3000円程度でこのパフォーマンスは優秀。
音丸を100点とすると左久作さんは105点かな、、、やはり何かが違う。説明できない何かがある。
同じ鋼を使って同じ軟鉄を使ったとしても鍛冶屋さんが違えば違った切れ味になるのが刃物。
同じ人の刃物でも当たり外れがあるほどの不安定な世界において利器材を使って品質の安定を図るのは良い事だと思います。
対して経験を積んで感性を極限まで磨いて同品質の刃物を作り続けるやり方はまさに名人の技と言えましょうか。
楽器を作るときに久作さんや他の名人と呼ばれる方の小刀を握ると気合が入って集中力が増すような気がしてます。
魔力に近いモノが宿っている気がするのは私だけではないハズ。
でも私などはそもそも木工技量が無い者ですから魔力に対峙すると、どっと疲れてしまう時もありまして、そんな時は肩の力を抜いて安価な小刀に自然と手が伸びています。自分には安価な小刀、高価な小刀、どちらも必要なんだと感じています。
動画は杉とサペリとメイプルをそれぞれの小刀で切って(削って)みました。

刃角度のせいもあるのですが音丸は食い付かない事があって滑る時があります。
音を聞いて頂いて切れ味の想像をしていただけると幸いです。