細工小刀を購入したついでにこの小刀(和式ナイフ紐巻き)も買ってしまいました。
この小刀もコレクション要素が強そうに感じてしまって今まで避けてきたのでした。
細工小刀を購入した時にその作りの良さにそれまで色物的に考えていたことが嘘のように消えてしまい、秘めたるポテンシャルにそこはかとない可能性を見出してしまったのでシリーズを次々に入手してしまった。といってもあながち大袈裟ではないのです。
箱を開けた時の第一印象はカラフルな紐巻きと、お婆ちゃんが手慰みで拵えたようなチープな作りのシースが、これは切れるのですか?と言いたくなってしまう程でした。
ところが、シースを取ってみると実に丁寧な仕事。
外形が綺麗に裁断したように見えます、もしかして普及クラスの肥後守と同じくプレス加工をしているのかなと思ったのですが、少ロッド(おそらく千本以下の製作だと思う)でプレス型は作らないだろうな、という勝手な推測をしてみました。
綺麗にエッジが出ていますね。
プレスやりっぱなしだと角が少し丸くなります。
通販サイトに見本として載っている写真と見比べてみたところ、微妙に形が違うので複合材に型紙を当てて卦書いたあとバンドソーで切り出しているのかな?とさらなる推測をしてみました。
大雑把に形作るなら3分くらいで整形できると思いますが、どうなんだろう。
一度見学してみたいですね。
手のひらに乗せてマジマジと見回してみると全体的に綺麗な仕事をしているのが分かります。
安価な肥後守にありがちな機械研ぎの跡も少ないです。
ブラストで刃紋を付けたりもしていません。
(新品時にブラストで刃模様を付けている例。
これは繰り小刀ですが安価な肥後守も同じ方法です。箱出しの肥後守がなかったものですから代わりに掲載します)
綺麗で丁寧な作りは五代目のこだわりなのかな。
それとも肥後守の倍以上の値段に相応しい手間をかけているのかな?
いや、一万円くらいする元佑(四代目)の銘入りの高級肥後守でも研ぎがいい加減(失礼な話ですがあえて事実を書きました)だったり歪んでいたり鞘に収まりが悪かったりする物が少なくなかった。
この事に関しては近年質が低下してきているのではないか?という意見をよく聞くようになっていました。
その辺りのクレームを改善した結果なのか、だとすると、とても良い企業努力ですよね。
五代目が跡継ぎとして鍛冶仕事を覚えだしたのは2010年のようです。
『近年質が落ちた』と言っても跡継ぎを目指してから8年も経過しているので、もしかすると修行中の五代目が発展途上中に製作した製品が出回った時期に質が落ちたと言われたのかもしれません。
ちなみに四代目は2018年現在で85歳になられているようです。
現在も製作されているかはわかりませんが77歳の時には確実に製作されていたのですから驚きとしか言いようがないです。
肥後守は入手者が研ぎあげて完全形に覚醒させて自分の分身として使って欲しい、という四代目昭和スタイルから、購入時には完成形に近いスタイリッシュな肥後守を製造するスタイルに変化してきているのか。。。。今後も永尾駒製作所から目が離せないです。
記事の最後に詳細書きますが、平成社会では僅かな隙があればクレームを付けてストレスを発散させる人が多い事多い事。
その平成もあと少しで終了して次世代の刃物文化はどうなる事やら一抹の不安がありますが、今は素直にこの綺麗な仕上げの小刀に喜びを感じましょうかね。
さて、話がかなり横道に逸れてしまいましたが小刀の詳細です。
手のひらに収まるサイズが可愛らしく、なかなかに重さもありますのでチープな玩具ではない事が直ぐにわかります。
厚みこそ2,5ミリと薄めですが、使い勝手は良さそうです。
グリップもいい感じですが、この組紐にどの程度の耐久性があるのか?いや、無いでしょうね。
本気で作業したら一日で擦り切れると思う。
この事が鑑賞用と感じてしまうポイントなのですが、刃先青紙2号の本格派(白紙仕様もあるようです)でよく切れますので実用には十分です。
さて、何に使おうかと考えた時に、やはり鉛筆削りが真っ先に思い浮かびました。
組紐が付いたままではアウトドアの水気は大敵だろうし刃先の形状からすると竹トンボ作りにも最適ではないように思えます。
ペーパーナイフにはいいかもしれません。けっして切れないという意味ではなくデザイン的に机の上にあっても物騒な雰囲気が感じられないと思うから。(会社で使おうと思ったら鈴はウルサイので外さないと駄目です)
秘めたる性能は十分ですから思い切って組紐を取ってシースも排除して作り直して改造するとアウトドアや料理にも使える万能小刀になるでしょう。
一度研いで本気の切れ味にするのが楽しみです。
出張が長くてなかなか研げない日々が続いていまして残念です。
さて、記事の真ん中辺りに何かとクレームを付ける現代社会について触れましたが、この小刀の通販サイトのレビューにはけっこうクレームが書かれています。
組紐についてのクレームが多く、『赤系色が欲しかったのに青がきた』、『シースと組紐の色が合っていない』等々。
しかし、どのサイトの説明文を見ても『色の指定はできません。』
と書いてあります。
どうしてこのようにしたのかはわかりません。
売れ残りを危惧したのか、糸色の都合で赤青のバランスがどちらかに偏っているとか、とにかく説明文にしっかり書いてあるのです。
にもかかわらず
『色の指定はできないと書いてありますが要望があったら誠意を見せるのが普通ではないでしょうか?』
『説明文をよく読んでいなかった私が悪いのでしょうが在庫があるなら対応できると思うのですが?』
と、切れ味や刃付けとは関係の無い滅茶苦茶なレビューがかなりありました。
殆ど言いがかりとも取れるクレームの中での販売、当然製作所にも耳に入るであろうし、こんなやりにくい世の中での製作は本当に大変だろうな、と、しみじみ思ってしまいました。
肥後守ファンとして欠点も含めて好きなのになんだかやりきれない気持ちになってしまった一日でした。
声高らかに、肥後守は不滅です。