サイト閲覧している時に現れるグーグルアドセンス等のマッチング広告にしょっちゅう出てくる一刀流の切り出し小刀、値段は1032円。
安物のオモチャみたいな代物なんだろうな、とやり過ごしていたのですが少し前に同サイトで購入した栃木レザー肥後ナイフもそこそこ良かったのと、あまりにも目に留まるのでサイトに飛んで詳細を確認したところ日本製、白紙仕様で職人による歪取りの跡が残っていますなどとパッケージに記載されていて、それだけの事を書いておいて千円って値段表示が間違ってないか?と思って他のサイトを調べるてみるも他の通販サイトもほぼ千円前後で販売されていて間違ってはいないようなのです。

いくらなんでも採算度外視と思えるのです。材料は古いヤスリのリサイクルなのかな?とか切れるのかな?とか様々な疑問が湧いてきてしまって確かめてみたくなりまして2本購入してみました。

メーカーは株式会社イトー、他にビッグマン名で肥後ナイフを出したりしていて一刀流同様プライベートブランド名ですが、正直に言いますとイトー様に申し訳ないですがどちらも安価物のイメージしかなくって。。。しかも多分ですけどイトーと一刀流の一刀ってダジャレで掛けてないですか?イットー流って?面白いのか?!
まぁ、そういう負の固定概念は良くないので改めて一刀流を検索してみると鋸から鑿から肥後ナイフやら剪定鋏とか裁縫鋏とか多岐に渡って展開されていて驚きました。
様々な三木の鍛冶屋さんに製作を依頼している刃物の総合プロデュースをされている会社のようです。
故富田修氏の弟さんの富田滋さん(2024年で78歳)の肥後ナイフも一刀流ブランドで発売されていたりして、決して安かろう悪かろうではなくて安くて良い商品が多いようなんです。

先入観はいけないですね。
届いた小刀を見ると想像していたペナペナの薄いモノではなくてそこそこの厚みがあって驚きました。


サイトでは裏の写真が掲載されていなかったので分からなかったのですが裏はしっかりと鑿鍛冶が作るような裏になっており二度ビックリです。
これって富田滋さんが作ったモノに似ています。
もしかして鑿鍛冶さんの新弟子さんが練習で作ったのか?などと色々考えてみましたが分かるはずもなく。

スペックはこんな感じになります。
仕様・利器材鍛造焼き入れ?
価格・1032円
鋼材・白紙2号?
全長・170ミリ
刃長(刃渡り)・
巾 ・17.4ミリ
厚み・2.2-3.2ミリ
刃角度・28度
重量・59g
普段私が手にしている共柄切り出し小刀(坂光基準)よりは全長が少し小さいのですが柄に仕込めば何の問題もありません。
さて切れ味ですよ。
初期段階で小刃は見当たりません。
これで良く切れるなら文句無し!早速割箸なんかを切ってみるとそこそこ切れるのですが、ちょっと抜けが重いと感じたので研いでみる事にしました。
原因の一つに歪みがありました。
この歪みを鍛冶屋さんが意図的に作りだしているもので切れ味に良い方向で貢献していると主張する方がおられますが、私は違うと思っています。
例えばカッターのような薄刃を歪めて切ってみてもたいして切れ味は変わらないですし、彫刻刀の丸刃をみても然り、点で接した部分だけで切ることになるのである意味切れ味は軽くなるのですが切削面積が少なくなっただけという錯覚が起きているだけなのです。
仮に意図的な歪みだとしてその歪みをユーザーが研ぎ直した時に同じように再現する事はほぼ不可能なのですから、やはり共通事項の平面にするべきなのです。
※諸説アリ
裏に黒マジックを塗って平面の出ている#3000〜#6000の砥石に当てると歪んだ部分が黒く残ります。


凹んでいる証なので叩いて出してやろうという算段です。
普段はコジ棒で歪みを直しますが今回の小刀は厚みがあって裏がしっかりしていて、さらに刃先側だけ歪んでいるのでコジ棒では難しいと判断して叩く事にしました。
※裏出しのあと砥石に当てるのが裏押しです。
YouTubeで鉋の裏出し動画は沢山ありますが、これでもか!というくらい叩いている方も多くて兼ねてから大丈夫なのかな?と疑問に思っていました。
最近某製作家兼ショップのご主人が叩きすぎは駄目と警鐘を鳴らしていたのを見て妙に納得しました。
小刀の裏出しは鋼が硬化する懸念があるのと鎬面が狭くて(私が)玄能が上手く命中しない下手くそなので敬遠してきたのですが、仕事で使っている点検ハンマーでピンポイント打撃をすると驚くほど軽い打撃で簡単に早く上手くいく事が最近分かりまして積極的に使うようになりました。
ネットで拝見する鉋使いの先輩達はダルマ玄能や八角玄能の角を使ったり船手玄能で器用に裏出しをしていますが私が真似をしても思った部分に当たらないのデス。

点検ハンマーで打撃すると深めのピンホール傷ができてしまい研いでも中々消えないデメリットはありますが鋼を割る危険はかなり回避できるようになりました。
はたしてこれが正しい行為なのかは分かりませんが鉋の裏出しヒッターという製品の打撃部分を見るとかなり尖っていますので間違ってはいないと思うのですが、真似をされる方は自己責任でお願い致します。

画像は裏出しヒッター大工道具の曼陀羅屋様より



マジックを塗って砥石に当てて黒く残った部分の表の軟鉄部分を叩く。
曲げたい部分を金床に密着させて叩く。
軟鉄部分を叩く事によって軟鉄が歪む力で鋼を連れ曲がりさせようという魂胆です。
さて、裏出しが終わったからといって直ぐに切れるようになる訳ではありません。この時点では裏の刃先部分に砥石が当たるようになっただけなのです。
裏を重視したので表側は乱れていますから改めて荒砥石から研ぎ始めます。

順次研ぎ進めますと刃先に欠けた部分が現れましたが、頑張って研いでも消えません。
これ、叩いた部分だと気付くも刃先は叩いていないので関係あるのかないのかは分からずでモヤモヤします。
もしかしたら数発叩いてしまったのかもしれません。
この辺は経験不足が響いてますね。
裏出しの叩きは最小回数で行うべきであり私のように下手だと割れたり脆くなったりする事があるので、今後もコジ棒が効かない時の為の最終手段として使う事にします。
実は記事を書いている間にこの切り出し小刀をデカイ柄の小刀に改造した経緯がありまして引っ越ししている間に記事も更新を忘れていました。
したがって研いだ続きはこのデカイ小刀になってしまいました。
今回記事を投稿するにあたって改めて研いだのですが、かなり一生懸命研いでも紙が切れるような鋭さにはなりませんでした。
肉眼では分からなかったのですが写真を見ると裏押しが上手くいっていないようです…が、あの手この手で裏押ししてみたのですがどうもクセが強くて難しかったです。
木材はスパスパに切れますので何ら問題はないのですが切れ跡がツヤツヤになるような切れ味は得られずじまい。
これは焼き入れ等の製造段階によるものなのか、研ぎによるものなのか、叩いたからなのか?今回は問題を先送りにしてしまいました。


1000円でこれだけ楽しめるなんて、とてもお得な小刀です。コスパが高いので是非普段使いに使ってみてください。
利益が出ているのか心配になりました。どうか儲けていて欲しい。
