匠明・共柄切出小刀21ミリ昭和レトロの香りがする箱から凄いのが出たよ

昭和っぽい箱に入っていて正鋼と書いてあります。


実はこの箱には見覚えがありましてフリマサイトで東大吉さんの切出小刀が二本入っていたのを見たことがありまして、それはタッチの差で購入できなかったのですが同じ箱で中身は違えど実に丁寧に作っている感じがして落札しました。




銘は匠明(しょうめい)に見えますがどうだろう?



匠明で検索すると

1608年に平内正信(へいのうち まさのぶ)によりまとめられた全5巻からなる木工・建築・木割りの秘伝書が「匠明(しょうめい)」です。

と木工と密接な銘であることが分かりました。

当サイトではまだ紹介していないのですが三木の池内和明鍛冶の和明という銘に見えない事はないかなと思ったのですが微妙ですね。

スペックは以下になります。

仕様・利器材火造り(と予想)
価格・千円(オークション価格)
鋼材・正鋼(炭素鋼という意味鋼種は不明)
全長・210ミリ
刃長・60ミリ
巾 ・24ミリ
厚み・1.9-2.1ミリ手元の最薄部は驚異の0.7ミリ
刃角度・17度
重量・56g



物凄く薄く作ってあるので自家鍛接か利器材かで悩みました。実際よーく見ると鍛接線のような跡もあるのですが、この薄さの自家鍛接を脱炭しないように最後まで仕上げるのは至難ではないでしょうか?利器材だとは思いますがドリルで穴を開けたくないのであくまでも個人の予想です。
池内刃物が利器材の美貴久を商標登録したのが昭和39年という事でそこからさらに20年前(1945年)に利器材はあったのかを調べると兵庫県小野市の利器材メーカー山陽利器(株)が1916年に創業している事がわかりました。可能性として昭和10年代でも利器材はあると思っています。


デザインから考察するとおそらく昭和20年~昭和40年前半くらいじゃないかと思うのですが箱の商標という文字が右から左に読むという事に着目すると1956年前後、つまり昭和31年前後になるのでしょうけれども平成でもレトロデザインは有りますし当てにはならないかな。


更に言えば箱に同封されていた防錆紙は(後に巻かれた可能性もありますが)1980年代に特許が申請されていたものでしたので年代予想は困難です。
仮に昭和20年代のモノだとすると当時の価格は幾らくらいになるのか、昭和26年の物価は
アンパン 10円
映画入場料 80円
カレーライス 80円
銀行員の初任給 3000円
公務員初任給 5500円(上級職試験合格)
週刊誌 25円
かけそば 17円
米10キロ 445円
ビール1本 123円
理髪料金 60円

カレーライスは別格に高いので除外するとして理髪料金の2倍、お米の半分以下とすると150円くらい(現在の2000~3500円)が妥当かなと思うのですがいかがでしょう。
実際の製造年は分かりませんがこういう妄想も楽しいものです。

とても綺麗で丁寧に作られています。


湾曲と言っていいくらい裏のRがキツい。
その影響もあり刃表も湾曲していて研ぎにくそう。

箱から出して直ぐに試し切りをしたのですが浮足立っていたのでしょう、間違って竹割箸を切ってしまい見事に欠けてしまいました。

この薄い身で小刃もないのに竹割箸は無謀でした。
接木小刀とは違うシルエットなのにこの刃の薄さはライバルの肥後守とは違うコンセプトで作られたと思われ、当時(何時かはわからないけど)流行っていたバルサ材の模型かなんかを切るのに適していたのではないかな、と想像します。

杉材は良く切れました。

研いで欠けを修整したのですが案の定刃表の湾曲が凄くて全体が砥石に当たりません。


全体が当たるまで荒砥を使うと軟鉄が消滅しそうなので考えてしまいました。

約45度で刃先の欠けを無くしてから刃先から1ミリくらいの場所に25度くらいの最小平面を作ります。
欧米の全鋼刃物を研ぐときの最小で平面を作るという考えです。
湾曲の頂点部分から砥石に当たって三日月が現れました。

刃先が弱かったので35度くらいの小刃を入れました。

裏は綺麗に研げました。所要時間は10分です。


ちょっと不格好ですがとても良く切れるようになりました。(※研ぎマニアには怒られるレベルなのは重々承知)


暇を見て朴柄に仕込んで使おうと思いますが、この厚みだとあんまり出番はないかな。
割り箸切っても親指に食い込んで痛いのです。
それでも大満足しました。千円で色々勉強できて愉しい小刀でした。
追記:匠は正と読めるのでマサアキという銘かもしれません