源音丸横手小刀130ミリ・いきなりピンピンに研いでみた

穴掘り三年、鋸五年、墨かけ八年、研ぎ一生という言葉がありますように刃物を『研ぐ』ということは永遠のテーマと言えます。

私自身の事ですがここ数年は生活環境が変わるたびに研ぎスタイルが変わってきたと言ってもいいほど安定したスタイルがありませんでした。
出張で旅館に長期滞在している時は水場が使えないので水をかけたら直ぐに研ぎ始めることができるシャプトンやKINGのS−1やG−1をメインに使っていました。
今の社宅に暮らし始めて二年、流し台を研ぎ専用水場として使えるようになったので松永砥石のKINGデラックス、ナニワ砥石の剛研やニューケント硬口をメインに使用しています。
シャプトンの平面維持力が以前より落ちているような気がしたのもあります。
そして平面が崩れた時の面出しの手間がシャプトンよりもキンデラや剛研の方が楽に感じるようになってしまったのも要因です。
さらに、シャプトンのガリガリと削り取るような研ぎ味よりもキンデラや剛研の舐め取るような研ぎ味が心地よく感じるようになったというのもあります。

シャプトンが悪いというのではなく固執はせずに状況に応じて進化したつもりです。砥石サイドだって不変の成分ではないはず、次回も完全同一品とは限らないですから臨機応変に対処できるよう色々な研ぎ方を試している途中といった所でしょうか。

刃先の研ぎ方についても大きな変革がありました。
二年前までは箱出し時の刃先の小刃は性急に落とすことはせずに鋼が勿体ないという大義名分を盾に、使いながら育てて最終的にフルスカンジにするというスタイルでした。
これは水場がない時代に砥石の平面出しを頻繁に行えないという事情にもマッチするものでした。

ところが現在は水場を確保して平面出しを頻繁に行なえるようになりましたので即座に小刃落としができるようになったのでした。

更に今通っている会社には仕上げ技能士が沢山いるので完全平面の板(金盤)が簡単に入手可能になりまして、その金盤を使って新たな小刃落としの方法を試している所です。
今の所10分以内で小刃を落とし平面にしてフルスカンジまで持っていく事ができるようになりました。
ちょっと異端で荒っぽいやり方なので眉をしかめる方もいらっしゃるかと思います、既に常識として行っている方もいらっしゃるかと思いますが今回「源音丸」という横手小刀を使って説明したいと思います。

先ずは源音丸という横手小刀の紹介です。


裏の銘が見にくくて判別が難しかったのですがなんとか読み取れました。
新潟県三条の鍛冶屋さんの製品と思われます。
音丸という小刀と同じなのか、おそらく同じだとは思いますが断言はできません。
ミナトと読むのかミナモトか、それともゲンかというのもわかりません。
丸という銘も結構見かけますが、丸というのは船の名前由来なのかな?とも思っていたのですが問屋さんの事を問丸(といまる)という事があるそうなので問屋銘なのかもしれないと思いつつ、同じく三条の源音房という鍛冶屋さんがいるようで初代と二代目なのかな?
2015年に音丸という商標登録が他社によって登録されているようなのでその時に改銘したのかな、等と想像が止まらないですがあくまでも想像です。
源音丸はデットストックが多く源音房は現行品(ハサミ、包丁、マキリと多岐にわたる)ということからも何かしらの関係はあるのでしょうか。


この横手小刀は30年前のデットストックです。
見た目はとてもシンプルで使いやすそうです。
鞘の収まりがとても心地良い。

対象物を切るときに指が当たるであろう部分も丁寧にヤスリがけがしてあって気持ち良く使えます。

仕様・複合材火造り鍛造か
価格・2000円(オークション価格)
鋼材・不明
全長・235ミリ
刃長・55ミリ
巾 ・20ミリ
厚み・3ミリ
刃角度・24度

幅が20ミリとやや細身ですが使いやすいですね。
最初は小刃が多めに入っていますので今回はこれを研ぎ落としてベタ(フルスカンジ)にしていきます。


※スカンジグラインドについては諸説あるようですが等サイトでは完全ベタ研ぎのことを指しています。
片刃の研ぎについて稚拙ですが4種類の画像で説明しますと以下のようになります(サイズがバラバラで申し訳ないです)
①一般的にはベタ研ぎした後に砥石に当たらない刃先を10円玉2〜3枚分起こして刃先に小刃(二段刃)を作って仕上げる

②ホローhollowとは中空の意味と思われる。鎬面を抉って)←のようにすることで砥石に当たる部分を最小にして素早く平面を出して刃を付ける事ができる。
切り出しでは梅心子で何度か見たことがある程度で珍しい。
電工ナイフは殆どがホローグラインドである。


③コンベックスグラインド(はまぐり刃)「はまぐり」なのだからクラムグラインドだろうと思うのですがコンベックスとは凸という意味です。曲面に膨らんでいるのでこのような名になったのでしょうか


④スカンジグラインド。少しでも砥石が荒れていると刃先が脆くなってしまうのでほんの少し小刃を入れる事もあるのでは?成功の証としてフルスカンジとしています。


※番外編
三段刃研ぎ。はまぐりの前段階としてこういう形に研ぐ方がいます。そのまま使う事もあります。やや重くなりますが強い刃先になるので堅木に良いです


裏に角度を付ける研ぎ。竹などに良いとされる研ぎ。ただし竹細工職人がこの研ぎ方をしているのを見たことがない(数人しか見てないけど)増田切出工場の製品で見たことがあります。
木工の洋書では洋鉋の刃にこういう研ぎをせよと書いてあるのが多いです。こうすると最小面積で平面を作れるのでベタ裏が基本の洋鉋の裏においては有効なのです。


研ぎ方は人それぞれですので上記以外の研ぎ方を否定するものではありません。

それでは今回の最速最短で小刀の平面を出す方法を説明します。
土台として金盤を使います。


これは仕上げ技能士の方に平面を出してもらった物です。
平面で硬ければいいので厚めの硝子板でも構いません。
ネット通販でも金盤が販売されている所はたくさんありますが平面が崩れた時に送り返して修正して(もちろん有料ですが)もらえるサービスを実施している所が良いかと思います。

普通、金盤が出てくると金剛砂がセットで登場すると思うのですが、私は金剛砂は使用しません。


金剛砂を使用すると往復運動しているそばから平面が崩れて行くのは目に見えているからです。
実際に事細かに計測して辿り着いた結論です。
私が使用するのは糊付きのサンドペーパーです。


色々試しましたが3Mの120番が良いです。


このスキットルサンドペーパーはまあまあ高いので普通のサンドペーパーで代用もできます、その場合両面テープで貼って行うとグニグニして平面に削れなくなりますので上下をテープで固定すると良いです。力を入れるとクシャッとなって手を怪我しますので御注意ください。
コスパは悪いように思うのですが平面が崩れて再研磨に出す費用と比較すると大差はありませんし、平面維持と研削力の両立となると最強だと思っています。
金盤は裏押しに使用するイメージがあると思うのですが表面(鎬面)もガンガン削ってしまいます。
これが鉋やノミにも同じ様に使用できるかは保証できませんが、古い締まった最硬の鋼には最適だと思っています。
もちろん傷が深い等のデメリットもありますが私の様に刃物研ぎに時間を掛けたくない者にとっては最良の方法なんです。
人造砥石界で硬いと言われるニューケント硬口等でも太刀打ちできないような古い鋼(経年鋼は硬度が増すという考えに基づき実際の経験から肯定しているというのが大前提にあります。それは気のせいという御意見もあるかと思います)でも数分で矯正できる、やり過ぎると取り返しがつかないほど削れてしまうのでした。


中くらいの力加減でしょうか、1分程往復させただけで小刃が消えました。


更に1分で鎬面が平らになりました。
傷消しの砥石を入れて剛研の#1000→剛#4000→KING G1いう順番で研ぎました。


しっかりと裏も同じ方法で平面にしました。


平面の出ている小刀を平面の出ている砥石に当てる。。。。これほど効率の良い研ぎ方は今までやってきませんでした。
今まではほんの少しの歪みなら中砥で矯正(研ぐではなく削っていたということか)しながら先に進もうという考えだったんですね。
歪みは砥石の平面を崩していきますので平面出しに追われることになります、最初から平面の出ている小刀を砥石に当てると純粋に研ぐ事に集中できますので仕上がりまでの時間が格段に早くなりました。
小刃の無い小刀の切れ味は気持ちがいいです。

以上の方法について何を今更という意見もあるかと思いますが、私の様に一人寂しく仲間もいない人間は比較できる刃物も方法もなく、切磋琢磨できる方もおりませんので、普段はほとんど進歩が無いんですよね。
同じような境遇の方に参考になることもあるかもしれないと思い恥ずかしながら記事にした次第です。