やらかし日記・坂光接ぎ木小刀木鞘入

オークションサイトを見ていましたら坂光さんの横手小刀が出品されていたので落札しました。


銘がハッキリしていたので欲しくなりまして出品期間が短かったので慌てて落札です。
商品が届いてビックリ!
これは。。。接ぎ木小刀ではないか!


迂闊でした。
接ぎ木小刀で木鞘に入ったタイプはあまり見かけませんし坂光さんの接ぎ木小刀でも殆ど見た事がなかったのでよく確かめる事もせずに落札してしまいました。
出品者の方も題名に小刀としか書いてませんでしたので接ぎ木小刀とは理解していなかったようです。
刻印が綺麗でしたし、マイ資料としては落札できて良かったです。





ところで、接ぎ木って聞き慣れない言葉ですよね?
Wikipedia:接ぎ木
栗の苗木やキュウリの苗なんかも接ぎ木(接ぎ草じゃないの?)するそうですがカッターで行う人が多く小刀を使ったやり方はYou Tubeで何人かが説明されているだけでした接ぎ木の方法You Tube
結構太い幹に小刀を喰い込ませるのですね。これは指が痛くなりそう。
接ぎ木小刀は共柄仕様が多いのですが何故木鞘に仕込んである接ぎ木小刀は少ないのでしょう?
田主丸型と言われている九州の一部地域で使用されている接ぎ木小刀は木鞘入りですが、多くの接ぎ木小刀は裸のまま、又はプラの持ち手です。




※写真は池内刃物の田主丸型接ぎ木小刀とプラ持ち手の栄太郎接ぎ木小刀(ネット検索で見つけたもの)

自分なりに考えてみたのですが

・鋭い刃先保持のために刃研ぎ回数が多くなり持ち手が邪魔になってしまうから(田主丸型は刃が長くこれを解消している?)
・業者がメインなので価格を安く抑えるため
・自分なりに持ちやすい鞘を作りやすいように。実際接ぎ木小刀は自作の藤巻やプラ巻パラコード巻が多い
・木鞘の隙間に水が入って錆び易いから


こんなところですかね。
もっと肝心な理由があるのかもしれませんが接ぎ木をやったことが無いのでこれくらいしか思いつきません。
幹を切るには木鞘に入っていた方が良い感じがするんですが素人考えなのかな?

一応私も何本か共柄仕様の接ぎ木小刀を持っています。
接ぎ木には使いませんがAmazonのオススメに凄く安く出てくるのでついつい買ってしまったのでした。






それにしても8113円→1954円みたいな値段設定はどういうカラクリなのでしょう?イレギュラーなアウトレット(返品)商品を在庫処分する為なのか、単に値段の入力ミスなのか、いつも安い価格で購入した直後にその他の在庫分は通常価格に戻っているんです。
この記事を書いている時にも偶然30ミリのピストル型の共柄接ぎ木小刀が上記の値段になっていたので購入してしまいました(二本目)。

話を戻します。接ぎ木小刀と切り出し小刀の決定的な違いは厚みと刃角度です。
おおまかな目安ですが厚み3ミリ以上(3.2ミリ以上が殆どです)→切り出し小刀(横手小刀)、3ミリ以下→接ぎ木小刀と考えて良いと思います。
接ぎ木小刀は2.2ミリ~2.4位が標準ですが2.7ミリ近いものもあります。
ですからフリマサイトなどで例えば

祖父の金物屋整理品を出品していて詳細が分かりません

などという場合は厚みを教えてもらえるとある程度判断できると思います。
刃角度は接ぎ木小刀の場合20度以下です。12度~17度位が多いです。
刃角度を計測するのは計測機器を使うか三角関数で導くしか無いのでやはり厚みと見た目で判断するのが良いでしょう。

接ぎ木小刀のように薄い小刀は作るのが難しいそうです。
熱が入り過ぎてしまい脱炭が起きやすいのです。
ですから複合材(利器材)で火造りする鍛冶さんが多いようです。東大吉さんの接ぎ木小刀なんかでも複合材が殆どです。
今回紹介した坂光の接ぎ木小刀は完全自家鍛接鍛造火造りです。
もちろん複合材だから切れないとか劣ると言うことではないですが難易度の高い薄刃小刀を自家鍛接する坂井久二さんは率直に凄いなと思いました。

それではスペックを見て見ましょう

仕様・自家鍛接鍛造火造り
価格・3500円(オークション)
鋼材・青紙
全長・210ミリ
刃長・60ミリ
巾 ・24ミリ
厚み・2.1ミリ
刃角度・13.5度

刃角度が物凄く鋭角なのが接ぎ木小刀の特徴です。
接ぎ木は同属異品種の細胞を接続するものですので細胞が潰れてしまうと上手く付かないので鋭い切り口が必要なのだそうです。
一説によると不純物の少ない白紙の方が接ぎ木に向いているという話もありますが接ぎ木職人じゃないとわからない話です。

一般の方が使うには接ぎ木に使わなければいけないというルールなどあろうはずもなく紙や桧、バルサ材なんかを切ると最高です。模型製作される方には役立つのではないかと思います。

接ぎ木は生木を切るのが主体ですがこんな鋭角で刃先は欠けないのでしょうか?
今回は刃先が欠けまくっていて全然切れない状態でした。
根元部分が特に酷く欠けていて、これは何を切ったのだろう?乾燥した中堅木でも切ったのでしょうか?
それとも私が知らないだけで切れ味最優先で数回接ぎ木をすると刃先はボロボロになって毎回研ぐようなものなのでしょうか。

このままでは埒が明かないので研ぎます。

なにわ砥石の響シリーズ1000→3000→8000

数十分かけて研ぎましたが根元の大きな欠けだけは研ぎきりませんでした。


研いだ部分で杉を切ってみると恐ろしい切れ味です。
接ぎ木をやる予定は今後も無いので殆ど使う事は無いのですが柔らかい木を一刀で仕上げる時があれば出番があるかもしれません。

現在接ぎ木小刀はカッターの登場で切り出し小刀以上の窮地に立たされているのではないでしょうか?盆栽やブルーベリーの挿し木等でも活躍する優れものですが研ぎスキルが無いと使い物になりません、その点カッターは進化を続け切れ味抜群の新製品も出ています。なにせ切れなくなったら折ればいいのですから。
それに自家鍛接鍛造火造りする職人さんも少ないでしょう。
現在購入できる接ぎ木小刀はプレス物が多いのも頷けます。

寂しいですが、それでも接ぎ木小刀じゃないとダメ!という方も一定数いらっしゃると思います。
その証拠に広島県呉市で作られていた岡恒接ぎ木小刀は今だオークションでは人気でなかなか落札できません。
入札で競り負けた時は悔しい気持ちより接ぎ木ニストに落札されたであろうと考え嬉しくなる気持ちが勝るのでした。

今回の坂光接ぎ木小刀は出番はあまり無いと思いますが大切に保管したいと思います。