フルスカンジは振り向かない1

インスタグラムのメッセージ機能からこんなメッセージが届きました。

初めまして(中略)私は趣味で仏像の一刀彫りを楽しんでいるものですが、最近小刀の研ぎ方で迷路に入り込んでしまい途方にくれています。藁にもすがる思いでメッセージしましたアドバイスお願いできませんでしょうか?

藁にもすがる思いって、相当悩まれているようですね。
お役に立てればいいのですが。。。とりあえずこちらから色々と質問をしてみましたところ以下のような状況でした。
・小刀歴15年
・砥石は主にシャプトン
・なおるで平面を出している
・以前は上手く研げていたと思う
・青紙一号の小刀を数本揃えてから研げなくなった
・同時に他の小刀も切れなくなった
・刃角度は25度を指定して作ってもらうか25度の市販品を選びベタ研ぎ(フルスカンジ)にしている。
・小刀は12ミリから21ミリ(彫刻刀の切り出し型含む)
・以前は薄く削れて艶感が出たがつまずくような切れ味で艶が出ない
・青紙一号の前は白紙やSK鋼を中心に愛用

だいたいこんな感じの状況でした。
小刀歴15年ですから研ぎの腕前は相当なレベルのはずですがいったいどうしたのでしょう?

私はたった一つの回答でこの方の悩みを解決しました。

貴方は平面の砥石で研いでいない!

このようにお返事をしましたところ、ちょっとキレ気味の返信がきました(私はこのような返信がくると予想していました)

早速のアドバイスありがとう御座います。あの、すいません、お言葉かと思いますが私もそこそこのキャリアがありますので砥石の平面には人一倍気を使っております。当然ながら平面ではないのでは?という疑いは一番最初に抱き平面チェックは欠かしておりません。そこが原因とは思えません

私はすかさず返答しました。
砥石はいつ平面にしているのでしょうか?

研ぎ終わってから必ず平面にして次の研ぎ始めにはストレート・エッジで平面を確認していますので間違いないです

平面にする頻度が少なすぎます。研いでる途中で平面は崩れています。ストレート・エッジでは確認できないレベルで崩れています。だから研いでいる途中で平面出しをしてください。何度でも

この返信から音沙汰がありませんでした。
しかし、この短いアドバイスで絶対にわかってもらえると思っていました。
キャリアがあるからこそ陥りやすく理解も早いのです。
数日後ひょっこり返信がきました。

師匠!ありがとうございます。おっしゃる通りでした。頻繁に平面出しをしただけで以前の切れ味、いやそれ以上、夢のような切れ味が実現できました。泣きそうです

この方少し大袈裟です(笑)師匠とか調子いいし(笑)

以前から僅かに平面の崩れた砥石で研いでいたと思われ、少し硬度の高い青紙一号に変えた途端に目立つようになったのだと思います。
ただでさえ小刀は砥石に対して狭い場所を掘ってるような研ぎ方になってしまいますので片減りしやすいのです。


ですからキャリアのある人は砥石の上下を返したり同じ場所で研がないように意識して研ぎます。

ここまでなら誰でも思いつくのです。
更に進んでいる人は数回〜数十回往復したらその場所は平面ではなくなったと決めます。
即座に平面出しをし直して研ぎを継続します。
私はレーザー平面測定器を用いて数回往復したら平面が崩れている事を確認してから今の方法に辿り着きました。
なぜそのような事をしたのかというとたまたま現場に測定器があって貸していただけたのとNHKのプロフェッショナル・仕事の流儀に出ていた孤高の研師坂下勝美さんを観て衝撃を受けたからなんです。


坂下さんは研ぎ続けて数十年、すべての指紋が無くなって身体はボロボロになりながらも究極の包丁研ぎを実現している方なのです。

世の中こんなに狂った(いい意味で)人がいるのか!凄い!凄すぎる!俺もちっとは拘り持たないと駄目だなと。

坂下さんの包丁研ぎはベタ研ぎではなくアーチ形状の砥石で点接研ぎをして空気の通り道を切り刃部分に作る独自な研ぎ方なのですが、方法はともかく追求する姿勢は見習わないと駄目だと感じたわけです。

と、まぁ偉そうな事を言ってますが、ホントのところはたまたま見つけたやり方がツボにはまって厄介だった繰り小刀なんかのベタ研ぎ(フルスカンジ)がとても楽に、そして早くできるようになったんです。

次回は繰り小刀を実際にフルスカンジにしていきたいと思います。