梅雨の季節になると小刀が湿気を帯びて錆びやすくなります。
私は砥石で研いだ後にラッピングフィルムでツルピカにして水分を弾く効果を出すようにしています。
夜な夜な砥石を出しては小刀達を研ぎ、鉛筆や割り箸などを削ったり彫刻をするのですが、以前に使った小刀が最後に使った日よりも切れるようになっていることが、稀にあるのです。
これが実に不思議な現象なんですよね。
だって最後に使った時はいくら砥いでも切れ味がイマイチに感じて、嫌気が差してお蔵入りにしていたのですから。
それから触ってもいないのに久しぶりに出して切ってみると物凄い切れ味になっていた。。。どのように理解すればいいのか不思議で仕方ないです。
私はこの現象を小刀の覚醒と呼んでいます。
今回覚醒したのは「東大吉」の横手小刀です。
前回まではイマイチの切れ味で「無駄な買い物だった」とさえ感じていたのに、あまりの切れ味に東大吉小刀を数本でも新調したくなったほどです。
小刀を所持して長年使用していると新品から数年した時に覚醒することがあるのです。
どうしてこのような覚醒現象が起きるのでしょうか?
私なりに考えてみました。
研ぎの上達。砥石の選択がベストになった
これは十分にあります。人造砥石じゃないと刃が出なかったり天然砥石じゃないと傷が消えなかったり。刃返りが取れなかったり。
しかし今回の場合は最後に使ってから触っていないのですからありえません。
研ぎ減りして本当に切れる部分が出た
焼入れは一番厚みのある部分を基準にしていますので刃先の薄い部分では脱炭気味になって新品時は欠けやすくなっていることがあります。
本当は板材のまま焼入れしてから角度を研ぎ出していけばいいのでしょうがコストも効率も悪くなるんでしょうか。刃先に砥泥を塗って温度差を無くすようにしている鍛冶もいるようですが。。。
研いで一皮むけると急に硬さが増して切れ味が向上することは確かにあると思います。
しかし今回は研いでいないので違いますね。
脳の錯覚
自分の中で「切れる」という感覚の理解が変化して、実は切れ味そのものは変わっていないのに感じ方が変わった。
つまりちょっと脳味噌がボケているのか。
しかし今回の場合は切断面の輝き方も違うので実際に切れ味の向上はあるのだと思います。
鋼の組織に変化があった
鋼は焼入れをした時に85%くらいしか硬化しないそうです。
時間と共に変化して切れる物質に変化していくそうです。
マルテンサイト化というらしいのですが詳しくは冶金学(やきんがく)で検索してみてください。
鋼組織変化を実感できたのがいわゆる小刀の覚醒なのでしょうか?
私は古い小刀が好きで買い集めていますが古いデットストック物ではあまり覚醒は起きず(既に覚醒は済んでいて最初からマックスポテンシャルの可能性大)、新しい製品で覚醒現象を多く経験していますので、個人的には鋼の組織変化こそ小刀の覚醒の正体ではないかと思っています。
既に完全マルテンサイト化した古い小刀を買うか、新しい小刀を買って育てるか。
どちらを選択するかは貴方次第です。