少し前の事、東大吉の繰小刀の写真をアップしていたSNSのコメント欄に
「これはどこで入手できますか?」
とコメントがきた。
「市場には少ないですがオークションにはたまに出ますよ」
同じ人から坂光の写真に
「これは青紙ですか」
とコメントがきたので
「これは白紙なんです」
と答えた
コメント者を辿ると韓国の方のアカウントだった。
はて?韓国の人が東大吉の小刀に興味を持つなんて珍しいではないか。
その後アクションがなかったのでこちらからDMで連絡してみた
「東大吉は見つかりましたか?」
「いえ、色々手を尽くしましたが無理でした。貴方のブログを見て東大吉・坂光を知って入手したかったのですが諦めます」
せっかく日本の刃物に興味を持って、しかも東大吉なんてマニアックなモノを欲するなんて相当な刃物狂ではないか。
こういう人をみると手助けをしたくなってしまう。
彼はヤンさんという方でどうやら趣味で竹細工を始めたいらしく主要な道具は既に取り寄せていて、あとは小刀だけというところまできたらしい。
当時私は東大吉を数本しか持っておらず、考えた末に
「坂光SAKAMITUならプレゼントするよ」
とDMした。
ヤンさんはたいそう驚いて
「どうして貴方は見ず知らずの私にそのような施しをしてくれるのですか」
と聞かれたので
「貴方の刃物に対する想いに応えたいだけです」
と書いておいた
ヤンさんは東京にある転送システム会社のサービスを利用していて、そこを通じて日本の通販で買い物をして韓国に転送しているらしいのだが、殆どの業者は面倒がって対応してくれていないようだった。
今回はこのシステムがお互いを詐欺だと怪しまなくて済むアイテムとなった。
私はそこに小刀を入れたレターパックを送るだけで事足りたのだ。
竹細工という事で坂光繰小刀と水月横手小刀と四郎國光切出し小刀を送る事にした。
昨今坂光は高騰しているけれど、その頃たまたま大量の坂光を鄙(ひな)びた金物屋さんから安く引き上げてきていて大量に保持していたのだ。
3本合計しても二千円とかそれくらい。それで刃物好きが一人幸せになれるのならば安いものだ。
2週間ほど経った頃ヤンさんから荷物が届いたと連絡があり、たいそう喜んでいた。
「このような事をして頂いて私は貴方に何をすればいいですか?」
と聞かれたので
「困った人がいたら手を差し伸べてあげてください、あと、、、竹細工ができたら見せてください」
「約束します」
それからは夏の暑い時期に私の身体の心配をしてくれた暑中見舞いの連絡を頂いたり、梨泰院の事故の時にはこちらから連絡してみたり、ワールドカップの時は日本の活躍を喜んでくれたりして交流が続いた。
そんなこんなで数ヶ月が過ぎた頃、竹細工の初作品ができたと連絡があった。
「貴方から頂いた小刀がとても役立ちました」
と。
海を渡った坂光小刀が役に立ったのは嬉しい事だ。日本の良い道具が国境を越えて評価されると嬉しく感慨深いものがありますね。
それから数週間した頃、ヤンさんから連絡があり
「貴方にナイフを差し上げたいです。オールドナイフです。イギリスから届きます」
「え?え?どういう事?」
「私は貴方にSAKAMITUを頂いた時からずっとこのナイフを探していました。貴方にプレゼントしたくて英国のオークションで探していました」
ヤンさん流のお礼という事か。
2週間後荷物が届くと雰囲気漂う見事な洋ナイフが箱から出てきた。
宝物が一つ増えた。
ヤンさんとは今も交流があり今後も続くだろう。
※後日談としてヤンさんが最初に揃えた竹細工の道具(ナタと幅決め)は京都から取り寄せたらしく、お店を聞いて検索してみたらどれも目ン玉が飛び出る金額でした。
ヤンさんがお金持ちなのか、ジャパンマネーの価値が下がっているのか、とにかく驚いた事を書いておきます。
世界地図の画像提供:Gordon JohnsonによるPixabay