東大吉作共柄切出し小刀24ミリ・コイツは青紙信仰者を唸らせる神白紙小刀

東大吉さんの切出し小刀です。



約24ミリ幅がそのまま下まで続くどっしりとした面構え




名匠と自ら刻印できるのは大東英一さんだけ。特権なのです


精緻極まる鍛接技術


木工作には最高の相棒になりうる一本




東大吉作については、既に語る事は少ないと思いますが、東大吉(あずまだいきち)という屋号は大東英一さんのお父様が東大吉と命名したそうです。
お父様の御名前が大東大吉(おおひがしだいきち)さんという事で語呂良く大を取って東大吉(あずまだいきち)となったようです。

初代父は大東大吉であ ったが、東大吉印で品質の良い物を造っていた。それに私の研究が加わったことで切れる刃物として 全国的に有名になった。そんなことで注文を受けても、三ヶ月、四ヶ月遅れることはざらで、製品が間 に合わないと苦情が絶えなかった。これでは一生仕事に縛られると思い55歳を定年とし、後は研究 して来た事を生かして自分の好きな物を造って幕引きにしたいと思っていた。そんな時、折からのカス タムナイフブームで鍛造ナイフを造って見ないかと誘いもあり、60歳頃から切出、小刀は作らないよう になる。しかし、東大吉を使っていた方々から、他の刃物を使っても全く仕事にならんので、何とか造 ってほしいとの強い要望もあり少量は造っている。年齢的なものもあり、気の向いたときに体力に合っ た時間だけやっているのが現状です。まだ腕は確かなものであり、切味には自信がある。ある意味で は今が集大成、一番切れるものが出来ている

刃物フルカワ様より引用

この文章からも分かるように大東英一さんの小刀は前期と後期に分かれる事になるのですが、白紙仕様が前期、青紙仕様が後期という単純な見分け方はできないかと思います。
白紙が良いとされる接木小刀においても白紙と青紙の両方が有ります。
ただし東大吉作の青紙使用には必ずと言っていいほど「青紙」という刻印が有りますので鋼で選択する方には嬉しい目印ですね。


今回の切出しが前期か後期かは分かりませんが、なんとも見事な小刀です。
丁寧に作られていて使うのが勿体ない(使いますが)。
関の刃物屋MARUOKUさんで購入しました。

仕様・自家鍛接鍛造火造り
価格・6710円(送料込)
鋼材・白紙(1号2号は不明)
全長・193ミリ
刃長・60ミリ
巾 ・24.9ミリ
厚み・3.2-3.4ミリ
刃角度・25度
重量・93グラム

刃角度も木工向きでイイ感じです。

箱出しだと裏に大き目のチップ箇所がありました。




切れ味に影響はあるのでしょうか、気になるところです。
この程度のチップは研ぎでなんとかなると思う方もいるかもしれませんが、かなり研ぎ進めないと消えないですし鋼部分なので難儀しそう。
使い始めが瓢箪裏なんてちょっと悲しいものです。
店頭で手に取ることができるのならば避ける事ができるのですが今回はネット通販のデメリットが出てしまいました。

少し落ち込みながら試し切りをすると、、、、、

割り箸程度なら良く切れましたが年輪硬めな杉材を削ると繊維を潰しながら切っているのが分かります。

東大吉白紙小刀切れないのかな。やっぱり青紙じゃないと駄目なのかな。
そこで登場するのが数年前オークションで購入した同サイズの東大吉。
こちらは一般の切出しと同様根元に向かって細くなっています。




以前も軽く砥いでいたのですが改めて荒砥→♯1000→♯5000→♯8000→革砥で計20分程度研いでみました




ニスが剥けたのか?更に小刃も消えて、アッと声が出るほどの切れ味になりました。

この切れ味は手持ち小刀の中で3本の指に入るかもしれません。
刃先が少し研ぎ切れていないのか白線傷が出ていますが、
もう少し砥ぎ代がある状態でこの切れ味とは感服しました。
このまま研ぎ進めて、もし切れ味が落ちてしまったらと思うと怖くなってしまって暫くはこのまま使う事にします。使って切れなくなってから研げばいいのです。

東大吉さんは青紙1号が有名で御本人も「青一が特に切れ味に自信がある」と答えていますが白紙だって恐ろしいほどの切れ味が出てるじゃないですかい。

†白紙は青紙に劣るのか?

SNS界隈では現役大工さんや木工家さんが鉋や刃物の貴重な情報を発信してくれていて多いに参考にさせていただいているのですが刃物において白紙のほうが永切れするとか研ぎやすいとか青紙は使わない!白紙しか使わない!とか、そういうお話は以前からかなり拝見していました。
私自身は鋼の材質の違いで永切れ等の実感はなく(経験が足りないのでしょう)、あまり気にせず坂光白紙小刀、西口青紙小刀と区別なく使っています。
昨今のキャンプブームでナイフ鋼材に対抗する戦略なのか、やたらと青紙を持ち上げる風潮が出来上がっていて青紙至上主義の方が増えている感があります。
しかし昭和の時代に白紙を使ってこそ切れる刃物ができるという事を講演で話されていた方がいます。
三条の岩崎航介先生の講演「刃物の見分け方」から引用します

青紙と云うのが一番値段が高い。一番値段が高いから、一番切れる刃物が出来る。こう思う方が多いのですけれども、そうでありません。青紙よりも二割程値段の安い、その下の白紙で造った方が、切味がよろしいんです。こういう事を先ず覚えて欲しい。
併し乍ら白紙で最高の切味を出す所の刃物を造るという、其の技術は、青紙でもって最高の切味を出す人の二倍から三倍の苦心をしなければならない。だから研究の浅い方が、白紙で刃物を造ると、必ず不良品になって了う。研究の浅い人は青紙を使うべし。研究の進んだ人は白紙を使うべし。と云うのは、亡くなられた星野初弘(初代)さんは、晩年は青紙を使わなかったのです。あの人の鉋は白紙で御座います。亡くなられてから工場の方針が変わったらしいけれども初代の初弘はどういう訳か青紙を使わんのです。
「貴方は何故青紙を使わんのですか。」
と聞いたら、
「あれ、切味悪いもん。」
と云われました。(※抜粋)

小刀において青紙の切れ味が白紙よりも悪いと断言できるほど体感したことはありませんが東大吉さんの青紙が研ぎ難いと感じる事はありました。
砥ぎ難いという事は上手く砥げていない即ち切れないという事もあるのでしょうか。
岩崎航介さん曰く砥ぎ難いのは硬いからではなく研ぎ難いだけらしいです???(岩崎さん、本当に硬くて研ぎ難い青紙もあるにはあると思うのよね)。簡単に曲がる柔らかい鋼のスコップを砥石に当てると理解できるそうです。

ウダウダと書いてしまいましたが何が言いたいかというと近頃はオークションで東大吉青紙が出ると高騰必至で入手困難になっていますので同等かそれ以上の性能を持つ白紙で十分ではないか?という話なのです。
白紙ならばかなりの数が割安で今もネットで入手可能なので購入条件に入れても良いのではないかと思いました。
コレクション用と実践用にあと数本サイズ違いも欲しいと感じる小刀でした。